最新記事
世界最大の民主主義国

「現代のネロ帝」...モディの圧力でインドのジャーナリズムは風前の灯火に

MODI’S UNFREE MEDIA

2024年5月23日(木)14時45分
アムリタ・シン(キャラバン誌編集者、ジャーナリスト)

newsweekjp_20240523033721.jpg

インド最大の富豪アンバニ(写真右)と抱擁を交わすモディ首相(11年1月) AMIT DAVEーREUTERS

政府の失態は基本的にスルー

モディが会見を開き、記者に質問の機会を与えたことは一度もない。国民に語りかけるときは、SNSや自身のラジオ番組『マン・キ・バート(心からの会話)』を使う。インド経営大学院ロータク校が昨年実施した調査によれば、番組には2億3000万人のリスナーがいる。

メディアにはモディに迎合する下地があった。インドでは媒体の多くが、政府の機嫌取りに腐心する企業や政府の広告に支えられている。

この傾向がますます顕著になっているのがテレビだ。インド一の資産家ムケシュ・アンバニは、インド版のCNBCやCNNを運営するメディア大手「ネットワーク18」を所有する。

モディに近いとされる富豪ゴータム・アダニは昨年正式に、モディのヒンドゥー至上主義に屈しない唯一のニュース専門局とされていたNDTVの支配株主となった。

モディ政権は特に電気通信分野でアンバニに便宜を図ったとして批判されている。不正取引を疑われたアダニを擁護したと非難されたこともある。現在彼らのメディアは、おおむね政府と歩調を合わせている。

こうした主流メディアは政府の失態をまともに取り上げない。例えば専門家がインドは中国との国境紛争で領土を奪われたと指摘しても政権は否定し、大半のメディアがその言い分を無条件で支持する。

20年6月にはインドの兵士20人が武力衝突で死亡したが、ニュース専門局アージ・タクのキャスター、スウェタ・シンは「国境を守るのは政府ではなく軍隊の務めだ」と言い放った。

昨年アメリカの投資調査会社ヒンデンバーグ・リサーチがアダニ・グループの「恥知らずな株価操作と不正会計」を糾弾した際も、テレビはアダニと政権の癒着を追及するどころか、彼を擁護した。

アージ・タクのキャスター、スディール・チョーデリは「これはアダニではなく、モディ首相を標的とした陰謀ではないのか」とまで述べた。

「報道の自由度」は159位

18年、政権は企業が「選挙債」を購入し匿名で政党に献金を行うことを許可すると通達。

選挙管理委員会が今年3月、選挙債システムから最も利益を得たのがBJPだったことを示すと、最大野党インド国民会議派(INC)のジャイラム・ラメシュ議員は「インド独立以来最大の詐欺」と非難したが、夜のニュースではほとんど報じられなかった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=主要3指数、日中最高値 米中貿

ワールド

ロシア大統領、北朝鮮外相と会談 両国関係は「全て計

ワールド

トランプ氏、ベトナム産コーヒーの関税免除 貿易協定

ビジネス

訂正-シカゴ連銀公表の米失業率、10月は4.35%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 5
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 8
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中