最新記事
国家論

今こそ考える「国家の役割」とは何か? 政府が危機対応へ機能しなければ悲惨な結果を招く

REGAINING CONTROL

2024年4月8日(月)17時35分
アンドレス・ベラスコ(元チリ財務相)
今こそ考える「国家の役割」とは何か? 政府が危機対応へ機能しなければ悲惨な結果を招く

2010年の地震もハイチを不安定化した JORGE SILVAーREUTERS

<災害、パンデミック、金融危機...非常事態には政府が最後の砦(とりで)となる。自国の運命をコントロールするには、各国は自らの衝動をコントロールしなければならない>

2010年1月12日、ハイチでマグニチュード7.0の地震が発生し、推定死者数は最大で31万6000人に上った。

そのわずか1カ月半後、チリでマグニチュード8.8の地震が起き、死者526人のうち156人が津波によるものだった。ハイチでは、主要都市の大部分が瓦礫と化したが、チリでは倒壊したビルはわずかだった。

ハイチとは異なり、チリの国民は厳格な建築基準法(1960年の大地震後に導入)と、建築検査官が手抜き建築を許さず、賄賂を拒否するという文化の恩恵を受けた。国家が機能すれば、一度の災害で何十万人もの命を救うことができる。

そして、ハイチが現在も世界に再認識させているように、国家が機能しなければ、悲惨な結果を招く。


全て明白なことだが、昨今の「常識」はそれとは相反している。いわく、今、世界中の市民が不安を抱えているのは政府が責任を果たさないからだが、それはグローバル化が政府を骨抜きにしているせいだ。

この解決には時間がかかり、それまでは自己責任──市民が不安になるのも無理はない。

不安の種を取り除くには、住宅の屋根が崩壊しないこと、老後用の貯蓄を預ける銀行が破綻しないこと、給料で支払われる通貨が価値を失わないようにすることが、誰にとっても優先順位の上位に来るはずだ。

これらを確実にするために、政府ができることは豊富にある。

20世紀最後の20年間は、新興国で金融危機が頻発した。だがそれ以降は、07〜09年に富裕国でも金融危機が起き、世界的な大不況にも見舞われ、約10年後には新型コロナウイルスが大流行したにもかかわらず、新興国でそうした金融危機はほぼ起きていない。

それは、多くの政府が自らの脆弱性に対処する決意をしたからだ。

90年代後半にトラウマを経験した東アジアでは、富裕国の韓国、台湾、シンガポールだけでなく、中所得国のタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンでも通貨安を容認し、対外借り入れを抑制し、輸出を増やして輸入を減らした。

その結果、数百億ドルの外貨準備高を積み上げることができた。

伝統的に経済運営が慎重ではない中南米諸国も、80年代と90年代の債務危機を経て、変動相場制を導入し、中央銀行を政治的に独立させ、財政赤字を制限するルールを採用した。07〜09年の世界金融危機の際に失業率は上昇したが、金融破綻は回避された。

パンデミックが発生した時も、この地域の金融システムは暴落を免れただけでなく、ほとんどの政府は国際資本市場へのアクセスを維持し、緊急支出を賄うことができた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マクロスコープ:高市「会議」にリフレ派続々、財務省

ワールド

南鳥島のレアアース開発、日米協力を検討=高市首相

ワールド

フィリピンCPI、10月は前年比1.7%上昇で横ば

ビジネス

債務残高の伸び、成長率の範囲内に抑え信認確保=高市
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイロットが撮影した「幻想的な光景」がSNSで話題に
  • 4
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 5
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 6
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇…
  • 7
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 10
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中