「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥

DISASTER AT THE BORDER

2023年12月11日(月)12時05分
デービッド・H・フリーマン(科学ジャーナリスト)

最新鋭戦車の盲点を突く

3つ目の機能不全は通信傍受体制だ。

イスラエルはガザ内部の通話を残らず傍受し、あらゆる電子通信を監視している。

潜在的攻撃の初期兆候は盗聴で察知できると信じていたからだ。その前提には、戦闘員が噂話をするはずだとの想定があった。

ハマスはイスラエルの通信傍受能力を逆手に取ったらしい。

攻撃計画に関するやりとりを対面に限定するだけでなく、電話での会話では意図的に、イスラエルとの対立は望まないと示唆していた。

こうした状況のなか、イスラエル軍はハマス戦闘員の侵入に2時間近くも気付かなかった。

重大危機発生の警報を発令したのは6時間後だ。

攻撃開始後の早い段階で、戦闘員はイスラエル軍のメルカバ戦車1両と対峙している。世界最新鋭の戦車の1つで、強力な機関銃を複数搭載し、高度な照準装置や最先端の装甲防御力を備えており、戦闘員を簡単に抑え込めるはずだった。

だが、メルカバは即座に爆破された。

ハマス戦闘員は、ロシア軍戦車を破壊するウクライナ軍と同様、市販されている小型ドローンから手榴弾を投下した。次に現れたメルカバも同じ目に遭った(その後、イスラエル軍はロシア軍に倣い、手榴弾防止のため砲塔の上に即席の屋根を装着した)。

世に名高いイスラエルのハイテク防御はうまく機能せず、システム全体の崩壊につながったのだ。

だがイスラエルの防御力を疑問視する声が出た理由は、何より時間単位での対応の遅れだった。

まとまった規模のイスラエル軍部隊が現地に到着するまでに約8時間かかり、最後に残ったハマスの戦闘員と対峙するまでに20時間もかかった。

「今後は『キルチェーン』(敵の発見から撃破に至る一連のプロセス)を最速で完了することが、戦場における交戦で勝利するカギになるだろう」と、ボーマンは語る。

「つまり、いかに素早く敵の行動を察知し、対応方法を決断し、実行に移せるかが重要となる。秒、分単位の違いが生死を分かつことになる」

その視点から見ると、今回イスラエルのハイテク防衛はきちんと機能しなかったと、彼は言う。事実、完全制圧までにかかった時間は約1200分だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:高級品業界が頼る中東富裕層、地政学リスク

ワールド

トランプ氏、イラン制裁解除計画を撤回 必要なら再爆

ワールド

トランプ氏、金利1%に引き下げ希望 「パウエル議長

ワールド

トランプ氏「北朝鮮問題は解決可能」、金正恩氏と良好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 5
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 6
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 7
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中