「10億ドルの鉄壁」が破られた、アメリカがハマスの奇襲成功から学ぶべきハイテクの欠陥

DISASTER AT THE BORDER

2023年12月11日(月)12時05分
デービッド・H・フリーマン(科学ジャーナリスト)

米軍においても過去20年間、ハイテク機器の使用は拡大の一途だった。

標的を自動捕捉する自律型ミサイルや、自律走行する装甲車、敵の兵器を無力化するエネルギービーム、兵士に着用させて戦闘力を高める金属製の外骨格型パワードスーツなどのテストも進んでいる。

その一方でアフガニスタンでの20年にわたる戦闘では、一般市民に紛れ込み、山岳地帯の洞窟に暮らし、電子機器による通信を使わず、死をいとわず襲ってくるローテクな敵の前では、最新鋭の兵器や情報収集機器も大して役に立たないということが白日の下にさらされた。

アメリカとライバル関係にある国々は、米軍とほぼ肩を並べる水準の兵器を持っている上に、軍隊の人員規模という点ではアメリカを上回っている。

「テクノロジーは兵力を何倍にもできるが、テクノロジーさえあればいいというものでもない」と、ボイドは言う。「米国防総省はイスラエルの状況を注視している。これはアメリカ自身の弱点について考えるきっかけになっているはずだ」

「イスラエルで起きているようなことに、いつかアメリカも遭遇するかもしれない」と、ボーマンも言う。

「ロシアがウクライナに侵攻し、中国が台湾を脅かし、イランがイスラエルを脅かす一方で核兵器開発に一歩ずつ近づき、北朝鮮の脅威もあるなかで、アメリカは今、私がこれまで見たこともないような恐るべき安全保障環境に置かれている」

アメリカがイスラエルと類似の(全く同じ場合も多い)ハイテク防衛機器に依存していることは、アメリカとその同盟諸国の懸念の種だ。

ガザ境界のアイアンウォールや、ミサイル迎撃システムのアイアンドームなどイスラエルの防衛テクノロジーは、米オバマ政権期に結ばれた合意の下でアメリカと共同開発された。

今日、そうした技術や類似のシステムの多くはアメリカの国境警備でも使われている。

メキシコ国境で不法入国者などの摘発に大きな役割を果たしているドローンの多くはイスラエル製で、イスラエルもガザ境界で同じものを使っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封

ワールド

トランプ氏関連資料、司法省サイトから削除か エプス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中