最新記事
アメリカ

現役兵39%減「新兵不足の危機」アメリカ軍が好景気とZ世代の影響で直面する新たな軍事課題

RECRUITMENT BLUES

2023年12月7日(木)17時29分
アレックス・フィリップス(本誌アメリカ政治担当)

231212P50_BGR_04v2.jpg

ニューヨークの入隊申込所 CHRIS HONDROS/GETTY IMAGES

「雇用市場が、軍の大きな競争相手になっていることは認識している」と、国防総省のシュウェグマンは語る。

「現代の若者には幅広い選択肢がある」と、彼女は認める。

「国防総省は、軍が就職活動に関する話題に上るよう努めている。ほとんどの人にとって、軍務はやりがいがある有意義な選択肢だと思う」

性的少数者を使ったPRも

そんななか、今年は海軍と陸軍が新兵を集めるためのキャンペーンに性的少数者を起用して、大きな論争を巻き起こした。

海軍は5月に、ドラァグクイーンのハーピー・ダニエルズことジョシュア・ケリー2等兵を「デジタル大使」に起用した。

さらに陸軍は6月に、トランスジェンダーのレイチェル・ジョーンズ少佐にスポットライトを当てたキャンペーンを開始した。

どちらも新兵集めで「幅広い層にアピールする」ことが目的だったが、かえって伝統的な新兵候補を遠ざけることになると批判を浴びた。

だが、ユースティスはこうした広報活動のターゲットとなる世代は「あらゆるライフスタイルに対してオープン」であり、この種の文化論争によって入隊意欲が低下することはないだろうと語る。

それでも、「一部の親はこうした宣伝を嫌悪して、子供の入隊にいい顔をしないかもしれない」と付け加え、「入隊について親の賛同を得るのは、ただでさえ難しい」と言う。

「軍は支持しても、自分の子が兵士になるのは勘弁だと考える親は多い」

「その種のキャンペーンは軍全体の採用努力を傷つけている」と、ヘンダーソンも苦い顔をする。

ただ、軍の採用担当者らは、こうした騒動に耳を貸さずに、「成長意欲や学習意欲の高い優秀な若者を見つける」ことに意識を集中しているという。

従来型のメディアが描く軍のイメージも問題だと、ユースティスとヘンダーソンは指摘する。危険な仕事であり、退役後も長期にわたって精神的・肉体的に苦しむというイメージだ。

「実際には、ほとんどの退役軍人は非常に元気に暮らしており、仕事でも地域でもリーダー役を担っている」と、ユースティスは語る。

その一方で、毎日17人近くの退役軍人が自殺しているという統計を示して、精神を病んでいる退役軍人が多いのは事実だと指摘する声もある。

「ハリウッド映画も(リクルートの)助けにならない」と、ヘンダーソンは言う。

「一般の人が軍人と言われて思い浮かべるのはSEALs(米海軍特殊部隊)など大がかりな作戦の先頭に立つ兵士だろう。だが、それは全体の3%にすぎない。残りの97%はサポート役だ」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪6月失業率は3年半ぶり高水準、8月利下げ観測高ま

ビジネス

アングル:米大手銀トップ、好決算でも慎重 顧客行動

ワールド

WTO、意思決定容易化で停滞打破へ 改革模索

ビジネス

オープンAI、グーグルをクラウドパートナーに追加 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 6
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 9
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中