最新記事
ガザ情勢

世界に波及するガザ情勢、問われる国家と人間の品格

2023年12月6日(水)10時55分
アルモーメン・アブドーラ(東海大学国際学部教授)
ガザ地区のパレスチナ人に連帯を示す人々

ガザ地区で苦境のただなかにいるパレスチナ人との連帯を示す人々(11月18日、アイルランド・ダブリン) Clodagh Kilcoyne-REUTERS

<凄惨なガザの状況をめぐって揺れる世界では、至る所で国家と市民の品格がぶつかり合っている>

イスラエル軍のガザへの虐殺同様の攻撃と、揺れ動く世界の反応を見て、私は数年前にベストセラーとなった『国家の品格』(新潮新書)を思い出した。

著者の藤原正彦氏によれば、日本の国家としての品格は「情緒」と「形」によって成り立っているという。

 

日本に限らず、情緒と形は国家の品格を考える際に重要な構成要素となる。ここでいう情緒とは「懐かしさ」とか「もののあわれ」など、その国の人々の精神や感情などを指すものとなる。また形とは、精神や価値観を形にするもの、例えば「日本の武士道精神からくる行動基準」はその一つとなる。

イスラエルがガザ攻撃で見せている「自国を守るためならパレスチナ人を全員殺していい」とでもいうような論理と、一部でそれが黙認されてしまう今の世界は、まさしく「国家の品格」ならぬ「人間社会の品格」が揺れている状況のように思えてならない。
 
藤原氏によれば、人間にとって最も重要なことの多くは論理的に説明できないという。イスラエルのガザ地区への攻撃では、論理的にいうなら、「2万人以上の丸腰の市民や8000人の子供、女性を殺してはならない理由」も「民間人や子供でさえ殺していい理由」もいくつでも挙げることができる。

今、国家も人間も品格が問われている。

ハマスを「テロリスト」と呼ばないBBC

ハマスの奇襲作戦「アル・アクサの洪水」はイスラエルに未曾有のパニックをもたらした。イスラエルのガザ地区への報復爆撃もエスカレートし、地上侵攻も始まった。

欧米の多くの政府がハマスを「テロリスト」と非難する中、イギリスの公共放送BBCはこの表現を使わず、政府や市民から批判や抗議の声が上がっている。(BBCでは代わりに「戦闘員」という言葉が使用されている)

その理由について、BBCは長年の姿勢として次のように説明している。

「テロリズムは、重大な政治的色合いを伴う難しく感情的なテーマで、価値判断を伴う言葉の使用には注意が必要だ。出所を明示せず、テロリストという用語を使うべきではない」

「『テロリスト』という言葉は、理解の助けよりも妨げになる可能性がある。われわれは何が起きたのか説明することで、視聴者に全貌を伝えるべきだ。他者の言葉をわれわれ自身の言葉として採用すべきではない。われわれの責任は客観性を保ち、誰が誰に対して何をしているのかを視聴者が自ら判断できるように報道することだ」

日本のメディアや記者はBBCのこの判断をどのように見ているのだろうか。偶然ではあるが、これは数週間前に当方が訴えた考えに近いものだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中