最新記事

BOOKS

元技能実習生など、不法滞在ベトナム人「ボドイ」による犯罪が北関東で頻発している理由

2023年6月30日(金)11時50分
印南敦史(作家、書評家)


 いまやボドイたちは北関東を中心に、日本の地下社会に強く根を張る存在になっている。しかし、そんな彼らを「悪い人たち」や「かわいそうな人たち」といったわかりやすい言葉でまとめてしまうと、多くのものを取りこぼす。彼らを捜査するにせよ報道するにせよ支援するにせよ、偏った理解は日本社会のさらなる迷走を生む。
 ボドイほど、日本人からの紋切り型の解釈を受け付けないナンセンスな人たちはいない。私はその事実と疎漏なく述べるために、彼らをここまで取材して本書を書かなくてはいけなかった。(280ページより)

"ボドイ的な外国人"が生まれる背景にある問題点は、言うまでもなく日本の外国人労働者政策だ。日本政府は国内の労働人口が減少し続けるなか、ローコストの非熟練労働者を大量に調達する必要に迫られてきた。そうして、途上国から連れてきた人たちを低賃金で働かせる技能実習制度のような仕組みが構築され、そこからこぼれ落ちた人たちがボドイになった。

だが、これから長くても15年ほど、何もしないで待っているだけでボドイはいなくなると著者は推測する。簡単な話で、かつて中国人たちがいた場所にベトナム人がやってきてボドイになったように、その先はまた別の外国人がやってきて、同じような存在になるというのだ。

つまり日本の労働現場が現在のような形である限り、いま北関東にある「移民」地下社会のような景色は日本国内のさまざまな場所で見られるようになる可能性があるということだ。

果たして、それが私たちの望む社会の姿なのだろうか。

北関東「移民」アンダーグラウンド
 ――ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪
 安田峰俊 著
 文藝春秋

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連安保理、ガザ新停戦案を支持する決議採択

ビジネス

iPhoneにチャットGPT搭載、日本でもARゴー

ビジネス

インテル、イスラエル新工場建設中止と現地メディア報

ビジネス

テスラCEOの560億ドル報酬案、カルスターズが反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 2

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっかり」でウクライナのドローン突撃を許し大爆発する映像

  • 3

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 4

    公園で子供を遊ばせていた母親が「危険すぎる瞬間」…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    フランス人記者が見た日本の「離婚後共同親権」が危…

  • 7

    メディアで「大胆すぎる」ショットを披露した米大物…

  • 8

    良い大学を出て立派な職業に就いても「幸せとは限ら…

  • 9

    ロシア軍が「警戒を弱める」タイミングを狙い撃ち...…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 7

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中