最新記事
ロシア

ほころび始めたプーチン支配...想定外が続く独裁者の憂鬱──ロシアの仕掛けた戦争がブーメランのように跳ね返る

Russia Unraveling?

2023年6月14日(水)15時00分
アレクセイ・コバリョフ(調査報道ジャーナリスト)
プーチン

戦争が長引くほどプーチンのリーダーシップに疑問符が重なっていく GAVRIIL GRIGOROVーSPUTNIKーKREMLINーREUTERS

<ウクライナ軍の反攻を前にドローンが首都を攻撃し、「義勇軍」は国境の村を占拠>

ロシアの首都モスクワで5月30日、何とも奇妙な光景が市民を驚かせた。白昼堂々と正体不明のドローン(無人機)の群れが市の中心部に飛来したのだ。ロシア当局によればその数は8機だが、ネット上では5機から25機以上までさまざまな説が入り乱れた。

【動画】モスクワに飛来したドローンの群れ

象徴的な攻撃ではなかった。クレムリン宮殿の尖塔の上にはためく国旗をドローンで倒すといったものではない。ターゲットは不明。ロシア当局は5機をミサイルで撃墜し3機を電子妨害で無効化したと発表したが、制御を失ったドローンが集合住宅に激突した。モスクワが空から攻撃されたのは1941年のナチス・ドイツによる空爆以来のことだ。

ところが翌日には、このドローン攻撃はロシアの国営メディアのトップニュースではほとんど扱われず、モスクワ市民は何事もなかったかのように日常を取り戻した。影響らしきものといえば、さらなるドローン攻撃を防ぐためにGPSサービスが停止され、タクシーの配車アプリが使いにくくなったことくらいだ。

とはいえ、ロシア人にとっては気の毒なことに、首都がやすやすと狙われたこの屈辱的な襲撃はほんの手始めにすぎず、その後の長い1週間に祖国防衛の手薄さを印象付けるニュースが次々に伝えられることになった。

6月4日には、「自由ロシア軍団」および「ロシア義勇軍団」を名乗り、「プーチン支配のくびきからロシアを解放する」と豪語する2つの武装集団が、ウクライナ北東部と国境を接するロシア西部のベルゴロド州に侵入し、ほぼ無抵抗で村を占拠したと発表した。国境警備が手薄だったのは訳がある。この一帯に配備されていたロシア兵の大半はウクライナ軍の大規模な反転攻勢に備えてウクライナ東部と南部に移動していたのだ。

武装集団の1つは、一時期占拠した国境の村で数人のロシア兵を捕虜にした。そしてベルゴロド州のビャチェスラフ・グラドコフ知事に捕虜交換に応じるよう呼びかけた。意外にも知事はこれにあっさり応じたが、結局は捕虜引き渡しの場に現れなかった。

ブーメラン効果に苦しむ

国境から約8キロにあるベルゴロド州シェベキノ(戦争開始前の人口は約4万人)は厳戒態勢が敷かれ、住民は避難を余儀なくされた。突然家を追われることになった住民にすれば、プーチン政権は自分たちを見捨てたも同然だ。

ウクライナ政府はしてやったりとばかり、ロシア領内に侵入したのはロシア人戦闘員であり、自分たちは彼らを統制できないと主張した。2014年春にロシアが支援する武装集団がウクライナ東部への攻撃を開始したとき、プーチンが言ったセリフをそっくりそのままお返しした格好だ。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アマゾンと米郵政公社、「ラストマイル配送」契約更新

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

NY外為市場=ドル小幅高、米利下げ観測で5週ぶり安

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、FRBの利下げ期待が支え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中