最新記事
日本社会

低ランク大学の卒業生ほど奨学金返済に苦慮している実態

2023年4月5日(水)11時20分
舞田敏彦(教育社会学者)
奨学金負担

奨学金の返済が若年層の重荷になっていることは確かだ tommy/iStock.

<入学偏差値が低い大学ほど、学生の貸与奨学金の利用率が高く、卒業生の返済滞納率も高くなる傾向が見られる>

少子化対策について議論されているが、結婚・出産をしたら奨学金の返済を減免しようという案が出ている。その是非はさておき、奨学金の返済が若者にとって重荷になっていることは確かだ。今では大学生の3人に1人が貸与奨学金を借り、数百万円の借金を負って社会に出る。彼らは重い「足かせ」をはめられていて、これが未婚化・少子化に影響していないはずがない。

ところで大学と言っても、様々なタイプがある。設置主体では国立、公立、私立に分けられ、数的に多い私立大学は、いわゆる入試難易度によって階層化されている。階層構造上の位置付け(ランク)によって学生の姿は異なり、上場企業への就職率も違うことはよく知られている。

学生の奨学金利用率にも差があり、誰もが知っている有名私立大学(偏差値70以上)では、2020年度の学部学生のうち貸与奨学金を使っているのは7%。これに対して、筆者がかつて教えていた某私立大学(偏差値40台)では40%。大きな差だ。

大学の入試難易度と奨学金利用率の関連はどうなっているのか。<図1>は横軸に入試偏差値、縦軸に貸与奨学金利用率をとった座標上に、首都圏(1都3県)の190の私立大学を配置したグラフだ。偏差値は各学部の数値の平均値で、ベネッセの「マナビジョン」というウェブサイトから得た。奨学金利用率は、学部学生のうち奨学金の貸与を受けている者のパーセンテージで、日本学生支援機構ウェブサイトのデータベースから得た(URLは巻末を参照)。

data230405-chart01.png

190の私大の貸与奨学金利用率は、4%から62%まで広く分布していて、偏差値と絡めると右下がりの傾向がある。入試偏差値が低い大学ほど、学生の貸与奨学金利用率が高い。相関係数は-0.6802で、統計的に有意と判断される。

各大学の学費よりも、入ってくる学生の家庭環境の違いが大きい。偏差値が低い大学では、家計に余裕のない学生が多い。筆者はこの手の大学で10年ほど教えたが、400円ほどの定食などにも手が出ないのか、昼間でも学食は空いていた。奨学金を借りている学生も多く、親には全く頼れないと、無利子と有利子(満額)を併用して借りている学生もいた。

月の借り入れは16万円、4年間の総額は768万円。卒業後、月2万円のペースで返済とすると、完済には32年間かかる。給与のいい大企業への就職率は低いことから、辛い思いをして返済している人が多いだろう。結婚や出産どころではない。なかには、返済の重荷に耐えられず、生活が破綻してしまうケースもあるかと思う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 航

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席か ウ和平交渉重大局面
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中