最新記事
中露関係

習近平とプーチンの「兄弟関係」が逆転...兄が頼りの弟分は付き従うのみ

“Big Brother” Xi Meets Putin

2023年3月29日(水)11時20分
フィリップ・イワノフ(米ジョージタウン大学客員研究員)
握手するプーチンと習近平

モスクワでの会談後、握手するプーチンと習近平(3月21日) MIKHAIL TERESHCHENKOーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

<戦争で疲弊したロシアがかつての弟分に支援を仰ぐ。社会主義時代の兄貴分を今も支える中国の狙い>

時は1949年12月半ばのこと。ソ連の国営ラジオ局が新しい曲を流した。題して「モスクワ・北京」。建国まもない中国から初めてモスクワにやって来た毛沢東主席を歓迎する勇ましい歌で、「ロシア人と中国人は永遠に兄弟」という詞で始まっていた。

社会主義国同士の熱き連帯というわけで、もちろんソ連が兄貴分。生まれたばかりの中華人民共和国は、長きにわたる抗日戦とその後の国共内戦で疲弊し切っていた。だからソ連の援助にすがりたかった。しかし「弟分」とされたことには怒りを覚えた。そのせいもあって、両国は後に別々の道を歩むことになる。

あれから約75年、この3月20日には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がモスクワを訪れ、翌21日にロシア(旧ソ連)のウラジーミル・プーチン大統領と会談したが、既に両国の力関係は逆転していた。今は中国こそが「大兄」で、ロシアは中国にすがる側だ。

【動画】「兄弟関係」が逆転...習近平とプーチンの首脳会談

世界の超大国(経済力では世界第2位)になった中国と、ウクライナに仕掛けた戦争のせいで疲弊し、孤立したロシア。どちらが上かは明らかで、ロシアは経済面だけでなく、技術面、外交面でも今まで以上に中国に頼らざるを得ない。ロシアの貿易統計を信じるなら、今年1~2月に中国からロシアへの輸出額は20%近く伸びて約150億ドル、中国のロシアからの輸入額は31%以上伸びて186億5000万ドルに。2月にはモスクワの証券取引所で、人民元が米ドルを抜いて月間最大の取引通貨となった。

一方で中国は、ロシアからの原油購入量を激増させた。今年1~2月の実績は前年同期比でほぼ24%増。おかげでロシアはサウジアラビアを抜いて、中国への最大の原油供給国となった。だが中国はロシアの10倍以上の経済規模を誇り、近代的な軍備を持ち、技術力でも外交力でも優位に立つ。両国間の勝者が中国であることは明白だ。

ただし、ロシアを中国の属国と呼ぶのはまだ早い。ロシアは依然として核兵器大国であり、化石燃料と天然資源、食糧などの主要な輸出国だ。米欧主導の経済制裁で傷ついたとはいえ、ロシア経済が破綻する気配はない。

中国はアメリカとの熾烈な競争や紛争のリスクに備えねばならず、戦略的にロシアの存在を必要としている。両国間には長い陸上の国境線があるが、もう何十年も紛争は起きていない。だからこそ安心して、それぞれに東西の敵と対峙できる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ナスダック連日最高値、アルファベット

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、FOMC控え

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ワールド

米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行動なけ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中