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ウクライナ戦争

小泉悠×河東哲夫・超分析「仮に停戦してもウクライナが破る可能性もある」

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年3月29日(水)11時20分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部

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ウクライナは東部バフムートで「7対1でロシア側に損害」と主張 YAN DOBRONOSOV-REUTERS

この戦闘をやめるとすれば政治決断しかないが、河東先生が昨年おっしゃっていたように、(ウクライナには)どこかでやめてもロシアがまた同じことを繰り返すという恐れがある。あるいは、ここでやめたら(2014年以降、ロシアに奪われた)2割の国土を永久に取り戻せないという恐れがある。

プーチンからすると──そもそも彼の戦争目的はよく分からないわけですが──2021年7月の論文(「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」)に彼が書いたように、ウクライナを取り戻さなければいけないという思想に本当に取りつかれているとしたら、明らかに現状は不満足なんだと思うんです。

ウクライナの領土も主権も、まだ全然影響下に収められていないと思っている。こう考えると、能力と意思がある以上は戦闘が続くと考えるべきだったでしょうし、同じことがこれから先にも言えるのではないか。

――河東さんはいかがですか。

■河東 昨年の2月24日、ロシア軍の勢いをテレビで見て「ゼレンスキー大統領は危ないかな」と思ったんだけれど、ロシア軍は緒戦でつまずきましたからね。あれを見て、戦争は長引くだろうと考えました。もしもロシアの敗色が濃厚になれば、ロシア国内の安定性自体も危うくなるだろうと思いましたが、今のところまだその状態にはなっていない。

小泉さんに付け加えれば、戦争は長引くだろうし、仮に停戦しても、ロシアだけじゃなく、ウクライナのほうも仕掛けてくる可能性がある。

■小泉 確かにここで中途半端な停戦をした場合、ウクライナ側にも失地回復に向けた動機を残してしまうということは考えられる。今回の戦争で明らかになりましたけど、ウクライナ側も血の気が多いんですよ。

だから、もしウクライナが軍事的に優位な状況で停戦したが、領土的に野心がまだ残っているような状態だった場合、ウクライナから停戦破りに行ってしまう可能性は排除できない。

その意味でも、今は主に軍事的なフェーズですが、どこからか外交・政治のフェーズとして停戦をどう設計するかを詰めていかなければ、どちらにとっても危ないと感じます。

※対談記事の抜粋第2回:戦争の焦点は「ウクライナ軍のクリミア奪還作戦」へ 小泉悠×河東哲夫・超分析 に続く。


小泉 悠(軍事評論家)
東京大学先端科学技術研究センター(グローバルセキュリティ・宗教分野)専任講師。著書に『ウクライナ戦争』『「帝国」ロシアの地政学』など。

河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)

外交アナリスト。ロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン「文明の万華鏡」主宰。著書に『日本がウクライナになる日』『ロシアの興亡』『遙かなる大地』(筆名・熊野洋)など。

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