最新記事
ウクライナ戦争

戦争の焦点は「ウクライナ軍のクリミア奪還作戦」へ 小泉悠×河東哲夫・超分析

THE DECISIVE SEASON AHEAD

2023年3月30日(木)18時15分
小泉 悠(軍事評論家)、河東哲夫(本誌コラムニスト、元外交官)、ニューズウィーク日本版編集部
クリミア大橋

昨年10月にはケルチ海峡に架かるクリミア大橋が爆破され、ロシア軍にとって痛手に REUTERS

<戦争の「天王山」はクリミア半島、セバストポリの軍港が核使用のきっかけに!? 日本有数のロシア通である2人が対談し、ウクライナ戦争を議論した>

※本誌2023年4月4日号「小泉悠×河東哲夫 ウクライナ戦争 超分析」特集に掲載した10ページに及ぶ対談記事より抜粋。対談は3月11日に東京で行われた。

※対談記事の抜粋第1回:小泉悠×河東哲夫・超分析「仮に停戦してもウクライナが破る可能性もある」 より続く。

――今後、作戦の展開がどうなっていくかが1つの大きな焦点です。ウクライナ軍はクリミア半島の奪還を目指すでしょうか。

■河東 クリミアが今、実際には一番大きな問題だと思います。ロシア軍がクリミアを守るための補給路が非常に「細く」なっている。主として2本あるのですが、1本は(昨年10月に)爆破事件があったケルチ海峡の橋。あれはまたいつ爆破されるか分からない。

もう1本はクリミアの西のほうから陸路、陸橋を伝っていくのですが、そこに行くまでにはウクライナの南端をロシア軍が獲(と)らなければいけない。しかし(11月に)ヘルソンから撤退したことで占領地域はかなり失われている。

その結果、クリミアに武器や兵士を持ち込むためのルートがずいぶん危うくなってきた。とすると、ウクライナ軍は春になったらクリミアを獲るために仕掛けるかもしれません。盛んにそう報道されています。

230404p18_TDN_MAP_01.jpg

■小泉 私もクリミア奪還の可能性はあると思っています。政治的に2014年の(クリミアとドンバス地方を奪われた第1次ウクライナ戦争前の)所まで国境を戻すという断固たる意志の表現にもなるし、プーチンのロシア国内向けの正当性に大打撃を与える効果も期待できる。

昨年8月以来、ゼレンスキーは「クリミアを取り戻す」とはっきり言っていますから、視野のどこかにはあると思います。

ただし、ヘルソン州の東側、またはザポリッジャ州を取り戻さないと、(ウクライナ軍は)クリミアを攻めるルートがない。そのため、まずウクライナ南部の領域を奪還できるかどうかが注目点になります。

それをやるには、まず東部でロシア軍の激しい攻撃を耐え切る。なおかつその耐え切る過程で2つのタスクがあり、1つはロシア軍に対して出血を強要することです。なるべく多くの兵力を集めさせ、そこで損害を出させる。もう1つは、自分たちの損害は抑えて、来年の春以降の反攻に使うための予備戦力を保持する。これは結構難しいタスクです。

今、ウクライナは「バフムートでは7対1でロシア側に損害を強いている」という言い方をしている。イギリスの報告書などは5対1ぐらいではないかと言っているが、本当にこれらの割合が正しいならば、そのタスクが達成できる可能性がある。

今年の初め頃からロシアの軍事専門家たちは、ウクライナが3個軍団を新しく再編中なのではないかと警戒しています。軍団の編成は国によって違いますが、1個軍団は複数の旅団・師団から出来ていて、(ウクライナの場合)2万5000人くらいの編成。この2万5000人編成の軍団3つを西部で再編していると言われています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小反発、ナスダック最高値 決算シーズ

ワールド

ウへのパトリオットミサイル移転、数日・週間以内に決

ワールド

トランプ氏、ウクライナにパトリオット供与表明 対ロ

ビジネス

ECB、米関税で難しい舵取り 7月は金利据え置きの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中