GDPの1.5%を占める性産業の合法化で、売春大国タイはどう変わるのか?

A GLOBAL CAPITAL OF SEX WORK

2023年3月8日(水)11時55分
ネハ・ワデカー

オーストラリアの人権団体ウォーク・フリーが18年に発表した「世界奴隷指数」によると、タイには人身売買の被害者が約61万人いる。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、その大部分は肉体労働に従事しているが、一部の女性と少女は性産業に送り込まれている。彼女たちは「何の見返りもなく消費されるだけだ」と、NPO「反人身売買同盟」(本部バンコク)のサンファシット・コンプラパン会長は言う。「これは性的搾取だ」

だが人身売買反対派が支持する犯罪化モデルには、セックスワーク擁護派から反対の声が高まっている。

犯罪化されても性産業の縮小にはつながらず、むしろセックスワーカーがもっと危険な環境で働くようになるだけだというのだ。性感染症や暴力、搾取のリスクが高まることを示す調査報告も増えている。

しかも犯罪化は差別につながる上に、多くのセックスワーカーは犯罪歴が付いて(勧誘しただけでも逮捕され得る)、他の仕事に就くことが難しくなり、かえって性産業に深くはまり込む恐れがある。

犯罪化で問題は解決しない

ワイツァーは、セックスワークを犯罪化してもその拡散は止められないとして、90年代のアメリカの麻薬戦争を引き合いに出す。麻薬常用者や末端の売人が厳しく取り締まられるようになったが、違法薬物の蔓延は止まらなかった。「完全な失敗だったという証拠がある」と、ワイツァーは語る。

タイでは昨年6月に、発足して間もない前進党のタンヤワット・カモンウオンワット下院議員が、セックスワークを合法化する法案を提出した。

合法的な売買春地区を設置するとともに、事業者をライセンス制にし、納税義務を課し、セックスワーカーの年齢や違法薬物の抜き打ち調査を実施することなど、詳細なルールを盛り込んだ法案だ。だが、合法化に反対するセックスワーカーもいる。

イギリスの著名なセックスワーカーで活動家のジュノー・マックは、潤っている業者は法規制を守る余裕があるが、個人営業のセックスワーカーは法的保護を受けられない恐れがあると主張する。従って合法化ではなく、非犯罪化して一般の仕事と同じように扱うべきだとマックは主張する。

ただ非犯罪化にも問題はあると、ワイツァーは指摘する。例えば、セックスワーカーを搾取する悪徳業者が放置されるというのだ。それでもセックスワーカーの社会復帰のためには、非犯罪化のほうが望ましいという声は少なくない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏、空母「シャルル・ドゴール」を地中海に派遣 大統

ビジネス

ECBは当面金利据え置くべき、戦争の影響不透明=ラ

ワールド

サウジアラムコ、原油輸出をホルムズ海峡から紅海側に

ビジネス

米国株式市場=下落、ダウ403ドル安 中東紛争でイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び率を記録した「勝因」と「今後の課題」
  • 4
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 5
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 6
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    イランへの直接攻撃は世界を変えた...秩序が崩壊する…
  • 10
    「日本食ブーム」は止まらない...抹茶、日本酒に「あ…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中