最新記事

ウクライナ情勢

この悲しい戦争が教えてくれる5つの教訓

LESSONS FROM YEAR ONE

2023年2月24日(金)12時00分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学教授〔国際関係学〕)

ロシア軍は首都キーウを空爆しても成果を出せず、甚大な損失を被った。そのときウクライナと西側諸国は、武器支援を拡大して制裁を強化すればロシアを撃退でき、大国の地位も奪えるかもしれないと考えた。

ウクライナは昨夏からの攻勢で、クリミア半島を含む全領土の奪還も夢ではないと希望を新たにした。専門家は、プーチンの失脚もあり得るという見方を示した。

それでも、ロシアが大国であることに変わりはない。人口はウクライナの3倍以上、軍事産業基盤も大規模で、軍備も充実している。

消耗戦になれば不利になるウクライナは、戦車を含む兵器の確保と兵士の訓練に躍起になっている。この春には限定的な勝利を収めるかもしれないが、どれほど援助を受けてもロシアの支配地域全ての奪還は難しいかもしれない。戦況は今後もエスカレートする可能性がある(核兵器使用の可能性も捨て切れない)。

■教訓4 戦争は強硬派を増長させ、妥協を困難にする

大きな代償を伴う戦時こそ、冷静な論理的思考と慎重な計算が重要だ。だが残念ながら多くの場合、戦時は混乱や希望的観測、うわべだけの道徳や愛国的なおごりが横行する。集団的思考が優位になり、強硬派が慎重派の意見をかき消してしまう。

そのため、双方とも勝利への道筋が見えない状況においてさえ、話し合いで妥協点を探るのが困難になる。戦争を終わらせるのが難しい大きな理由の1つが、ここにある。

この戦争をめぐる論調は異常なほど敵意に満ちている。アメリカのタカ派有識者はウクライナ支持を打ち出し、反対意見を「認識が甘い」「ロシア偏重」などと中傷する。

確かに彼らが主張するように、西側諸国はウクライナが全領土をロシアから奪還できるよう「やれることは全てやる」べきなのかもしれない。だが戦争を長引かせる手助けをすることが、ウクライナにとって悪い結末を招く恐れはないのか。ベトナムやイラク、アフガニスタンの例を思い返すと、その可能性がないとは言い切れない。

■教訓5 「抑制戦略」は戦争のリスクを軽減する

最後の、そして最も重要とも言える教訓は、もしアメリカが外交に「抑制的な戦略」を採用していたら、今回の戦争が起きる可能性ははるかに低かっただろうということだ。欧米の政治家が、際限のないNATO拡大が招き得る結末について繰り返された警告に耳を傾けていたら、ロシアはウクライナ侵攻に踏み切らなかったかもしれない。

もちろん、残虐で違法な戦争を起こした一番の責任はプーチンにある。しかし西側諸国の尊大さも、ウクライナ国民を苦しめている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カナダ小売売上高、5月は関税影響で1.1%減 6月

ビジネス

米下院委、中国CATLのIPO巡りJPモルガン・B

ワールド

トランプ政権、ニューヨーク市を提訴 「聖域政策は違

ワールド

韓国産業相、米商務長官と会談 関税交渉で合意目指す
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 2
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家安全保障に潜むリスクとは
  • 3
    まさに「目が点に...」ディズニーランドの「あの乗り物」で目が覚めた2歳の女の子「驚愕の表情」にSNS爆笑
  • 4
    レタスの葉に「密集した無数の球体」が...「いつもの…
  • 5
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 6
    WSJのエプスタイン・スクープで火蓋を切ったトランプ…
  • 7
    参院選が引き起こした3つの重たい事実
  • 8
    アメリカで牛肉価格が12%高騰――供給不足に加え、輸入…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    バスローブを脱ぎ、大胆に胸を「まる出し」...米セレ…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 5
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 6
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 7
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 8
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 9
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 10
    日本では「戦争が終わって80年」...来日して35年目の…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中