最新記事

米中関係

「偵察気球」飛来は中国の大失態、背景は謎だらけ

Why the Chinese Spy Balloon is a Huge Embarrassment for Beijing

2023年2月9日(木)19時32分
ジョン・フェン

サウスカロライナ沖で中国の気球を回収する米水兵(2月5日)U.S. Fleet Forces/U.S. Navy photo/REUTERS

<ブリンケン訪中は吹っ飛び、軍事機密を奪われ、習近平も今更非を認めることは政治的にできない。アメリカの専門家もなぜこんなことをしたのか首をひねるばかりだ>

米軍が撃墜した偵察気球をめぐって、中国外務省はここ数日防戦に追い込まれ、何とか面子を保とうとあたふたしている印象だ。

この一件には、中国ウォッチャーも首を傾げる。まず、なぜこの時期に気球を飛ばしたのか。どのレベルで決定が下されたかも謎だ。予想外の外交上のダメージに慌てふためき何とか事態の収拾を図ろうとしたのか、当初は遺憾の意を表明するなど融和姿勢を見せたものの、気球が撃墜されるや「被害者」に豹変し、アメリカに猛烈に抗議し始めたのは、どういう考えからか。

アントニー・ブリンケン米国務長官の訪中計画を諸手を挙げて歓迎してからわずか数週間後、気球の領空侵犯を理由にブリンケンが訪中延期を決めると、中国側は「延期も何も、そもそもこの訪中計画は正式な発表すら行われていなかった」とやり返した。

さらに気球撃墜のニュースが世界を駆け巡ると、中国政府は北京のアメリカ大使館に「厳正な抗議」を表明した。中国の次期駐米大使と目されている謝鋒(シエ・フォン)外務次官が大使館を訪れ、「中国の利益を損ない、緊張をエスカレートあるいは拡大させるような行為を慎むよう」強く申し入れたのだ。

「中国のやることは不可解」

ブリンケンの訪中は実現すれば実に5年ぶりの米外交トップによる訪中となるはずだった。それを間近に控えた時期になぜ中国は高さ60メートルの気球を飛ばしたのか。今もさまざまな憶測が飛び交っている。2月6日にホワイトハウスでの記者会見で、これについて聞かれたジョー・バイデン米大統領は「中国政府のやることだから」とだけ答え、米中対話の進展に支障をきたすような問題ではないと述べた。

アナリストのなかには、領空侵犯は意図的ではなくコースが外れただけという見方もある。米中会談成功のために躍起だったはずの中国指導部には、気球を飛ばす計画は報告されていなかったのかもしれない。いや、指導部は重々承知していたが、見つからないとタカを括っていたのではないか......。

中国のものとみられるもう1つの気球が中南米とカリブ海上空で確認されたことを米政府が発表すると、中国は自国の気球だとすんなり認めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係

ビジネス

ウーバー第1四半期、予想外の純損失 株価9%安

ビジネス

NYタイムズ、1─3月売上高が予想上回る デジタル

ビジネス

米卸売在庫、3月は0.4%減 第1四半期成長の足か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中