最新記事

南シナ海

フィリピンは結局「中国寄り」か反中か──南シナ海・対中攻防史

A RISKY BET FOR THE US

2023年2月9日(木)11時05分
ハワード・フレンチ(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

そこへ今年1月末、さらなるニュースが届いた。ドゥテルテの後継者で、昨年5月の大統領選を制したフェルディナンド・マルコスJr.(1986年まで20年近くフィリピンを支配していた親米の独裁者マルコス元大統領の息子)が、アメリカとの同盟関係を劇的に強化する姿勢を表明したのだ。

その一環として、フィリピン北部・ルソン島の軍事基地などへの米軍のアクセスが認められる可能性が高いとされる。

マルコス政権はアメリカとの軍事連携の強化は中国を念頭に置いたものではないとしているが、フィリピン側の思惑は明白だ。

フィリピンは伝統的な弱者の武器──国際法への訴え──を駆使してきたが、成果は上がらなかった。国家の主権が損なわれても中国への協力がもたらす経済的利益で穴埋めできる、という発想を実行に移した末に、国家主権のほうがより重要だとの結論にたどり着いたのだろう。

先月、スイスの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席したマルコスは、南シナ海の緊張についてこう述べた。

「夜も眠れないし、昼間も眠れない。眠れる時間帯はほとんどない」

マルコスは、対米関係の強化によって中国の攻撃的な姿勢を封じ込められると考えているように見える。もしそうなら、フィリピンは「オフショア・バランシング(域外からの均衡維持)」と呼ばれる古典的な手法──今回の場合、強い隣国に対抗するために、弱小国が遠く離れた強大な国に助けを求めること──の格好の例だ。

ただし、アメリカにとって気がかりなのはフィリピンだけではない。

バイデン政権は台湾をめぐる戦争リスクを念頭に、この地域の多くの国との連携強化を進めている。最近、国防総省の高官が夜も眠れないのは、何よりも台湾情勢が原因だ。

米中が2025年に衝突する?

1月27日には、米空軍のマイケル・ミニハン大将が指揮下にある部下宛てのメモで、米中戦争が迫っているとの警告を伝えていたことが明らかになった。メモには「私の直感では、われわれは2025年に戦う」と記されていた。

「習は3期目に入り、2022年10月に戦争関連諮問委員会を設置した。台湾では24年に総統選が予定されており、習にとってはこれが(戦争の)口実となる。アメリカの大統領選も24年で、習の目にはアメリカが注意散漫な状態に映るだろう。委員会、口実、機会の全てが25年に向かっている」

アメリカは現在、沖縄でのプレゼンスを拡大し、グアムで軍事力増強を進めている。また、長距離巡航ミサイルの導入や海上の防衛力強化に取り組む日本の努力も歓迎している。さらに中国の台湾攻撃を抑止すべく、オーストラリアや遠く離れたNATO加盟国にも働きかけている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

クルド人組織PKKが武装解除、トルコとの対立終結へ

ワールド

ウクライナ、ロシア西部にドローン攻撃 戦闘機・ミサ

ワールド

米、ウクライナ軍事支援再開 ゼレンスキー氏が表明

ワールド

ブラジル大統領、報復辞さないと再表明 トランプ氏は
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パトリオット供与継続の深層
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 6
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 7
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    英郵便局、富士通「ホライズン」欠陥で起きた大量冤…
  • 10
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中