最新記事

東南アジア

東ティモールがASEANデビュー 域内すべての国が加盟でEUしのぐ地域連合に

2023年2月6日(月)11時57分
大塚智彦

インドネシアから独立の歴史

ACCの会議は非公開で行われたが、会議後に記者会見したルトノ・マルスディ外相は「いくつかの重要な議題で協議が行われたが、東ティモールのオブザーバーとしての資格ガイドラインも話し合われた。そしてACC作業部会への東ティモール参加付帯条件の改定も採択された」として東ティモールの正式加盟に向けた協議が進められたことを明らかにした。

ASEANはこれまで東ティモールに調査員を派遣して同国の経済、政治、治安及び社会文化などを調査し、ASEAN加盟に十分な条件を整えているか見極めてきた。

東ティモールは旧ポルトガル植民地から1975年11月28日に独立を宣言するもインドネシア軍が侵攻し、1976年にインドネシアが「東ティモール州」として併合。以後独立を求める武装組織とインドネシア軍による激しい戦闘が続いた。

1998年にインドネシアのスハルト長期独裁政権が民主化要求の前に崩壊し、後継のハビビ大統領が1999年に東ティモールの独立を問う住民投票を実施、78.5%という高い支持でインドネシアからの独立意志が表明され、以後国連の暫定統治などを経て2002年に長年の宿願であった独立を勝ち取った。

独立の直前までインドネシア軍と軍傘下の併合支持派武装勢力による治安かく乱が頻発したが、国連暫定統治の治安を担うオーストラリア軍などの努力で独立に漕ぎつけ、独立に反対する併合派の住民や民兵はティモール島の西半分を占めるインドネシア領西ティモール州に脱出した。

かつて「仇敵」であったインドネシアと東ティモールの両国関係は独立達成後は東ティモールの初代大統領シャナナ・グスマン氏による融和姿勢で良好な関係が構築され、東ティモールのASEAN加盟にもインドネシアが積極的に動いたとされる。

2019年9月に死去したハビビ元大統領の病床にグスマン元大統領が訪問してお互いに抱擁する姿が報じられたこともある。

EUより多くの人を擁するASEAN

ASEANは1961年にマレーシア、フィリピン、タイの3カ国による「東南アジア連合」を前身とし1967年にインドネシアとシンガポールが参加して5カ国によるASEANとして創設された。

その後1984年にブルネイが加盟、1995年から1999年にかけてベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが加わり現在の10カ国体制となった。

域内の総人口は6億6000万人以上で欧州連合(EU)より多く、有数の地域連合となっている。

今回の東ティモールのASEAN加盟は東ティモールが小国ゆえに今後のASEANの経済発展に大きな貢献とはならないとはいえ、東南アジアにある全ての国が加盟を果たすことになり名実ともに地域連合としての地位を固めたことになり、その意義は大きい。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ北部の学校に攻撃、パレスチナ人15人が死亡=保

ワールド

ドイツ国防相、600億ユーロ超への国防予算増額目指

ワールド

インドがパキスタンの「テロ拠点」攻撃、26人死亡 

ワールド

ウクライナに「テロの傾向」、モスクワ無人機攻撃で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 7
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 8
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中