最新記事
中国

中国Z世代は「メイド・イン・チャイナ」に熱狂──消費者ナショナリズム加速の背景

China: The Rise of Gen Z

2023年1月25日(水)12時50分
トム・ハーパー(イーストロンドン大学講師、国際関係論)
Z世代

国慶節の10月1日に漢服姿で国外有名ブランドの店の前を歩く若い世代(香港) ANTHONY KWAN/GETTY IMAGES

<国外ブランドより国内ものを好む若い世代の消費行動は、欧米への幻滅が引き起こす危険なナショナリズムの表れか>

1月22日からの旧正月(春節)を前に、高級ブランドは卯年にちなんだ中国向けの高級品を次々に投入した。クリスチャン・ディオールはゴールドとダイヤモンドをあしらった26万元のウサギ時計。バーバリーは約7000元の耳付き帽子。日本のストリート系ブランド、アンブッシュは3000元以上するピンクのウサギのバラクラバ(目出し帽)を早々と完売した。

ターゲットの市場は中国の若い消費者4億人余り。彼らには、中国での成功を求める国外ブランドの運命を左右するパワーがある。

欧米と同様、中国でもZ世代(1990年代半ば~2000年代生まれ)の消費者はSNSの熱心なユーザーだが、08年の世界金融危機の影響下で成人した欧米の同世代とは違い、00~10年代の急速な経済発展の中で育った。そのため前の世代に比べて自信にあふれ、教育水準も高い。

この世代のもう1つの特徴は人数の多さだ。欧米では戦後生まれのベビーブーム世代以降で最大規模。文化、経済、政治に大きな影響力を持ち、中国のZ世代は「次のベビーブーム世代」と呼ばれている。

中国の若い成人層は自分たちの世界観に基づき、将来の中国の意思決定に影響を与える世代だ。具体的に彼らは中国をどう変えるのか? その答えは、Z世代の消費行動から見て取れる。

最も目立つ特徴の1つは、「国潮(「クオチャオ)」(中華風トレンド)だ。このブームを代表するブランドは、中国の伝統とモダンデザインの融合を目指す。流行のきっかけは、スポーツウエアの李寧(リーニン)が18年にニューヨーク・ファッションウイークでお披露目した悟道(ウータオ)コレクション。道教に影響を受けた悟道のデザインは、中国の消費者の間で広がるもっと大きなトレンドを示唆している。

国潮の流行は、中国国内のいくつかの変化を物語る。まず、消費行動の変化。自国文化を取り入れた製品を望む若い消費者が増え、国外ブランドよりも国内ブランドを好むようになった。

その背景には、中国のアイデンティティーについて年長世代と異なる見解を持つZ世代や、そのすぐ上のミレニアル世代の存在がある。彼らはずっと、中国は欧米に匹敵する強国だと考えてきた。

経済発展初期の中国製品の特徴だった「安かろう悪かろう」から脱却して、「メイド・イン・チャイナ」の意味を再定義しようとする国潮の取り組みは、この世代のハートを直撃したのだ。

230131p56_CGZ_02.jpg

上海にある李寧の旗艦店のディスプレイは「中国李寧」の4文字を強調 QILAI SHENーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

「Z世代政権」はこうなる

中国の若い消費者の影響力を示すもう1つの動きは、伝統的な衣服、特に「漢服」の人気だ。漢服市場の成長は目覚ましく、昨年は18億5000万ドル規模に達したようだ。

国潮と同様、漢服熱の牽引役も若い消費者であり、テレビ時代劇やSNSが大きな役割を果たした。TikTok(ティックトック)の中国版・抖音(ドウイン)では、関連コンテンツの視聴回数が4770万回に達している。

漢服の人気も国潮と同じく、伝統文化を活用して中国のアイデンティティーを再定義しようとする幅広い動きの表れでもある。新たに豊かさと自信を手に入れた社会が、国際的地位の自己認識に見合ったアイデンティティーを再構築しようとするのはよくあることだ。近年の韓国やかつての日本もそうだった。

中国の若い消費者が突き付ける最も明白な問題は、「国外ブランドより国内ブランド」という志向の表現方法だ。この動きはしばしば「消費者ナショナリズム」の一形態と解釈されている。

特に有名なのは、21年に人権侵害を理由として新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと宣言したナイキとアディダスへの不買運動だ。両ブランドとも中国市場での地位を完全には回復していない。

その反動で安踏(アンター)体育用品や李寧など中国ブランドの売り上げが欧米勢を上回った。大手国外ブランドの中国市場参入後初めてのことだ。

こうした消費者ナショナリズムは、若い世代に広がる欧米への幻滅の反映であり、多くの若い中国人は外国、特にアメリカを敵と認識し始めている。オックスフォード大学が昨年行った研究によれば、90年以降に生まれた中国人はアメリカに否定的な見方をする傾向が強い。

ここで重要なのは、この反発は当局の反欧米プロパガンダの結果というより、ドナルド・トランプ前米大統領が広めたような反中感情が大きな要因になっている点だ。

そのため今後は、もっと欧米に強い姿勢を取るよう共産党に求める圧力が強まりそうだ。Z世代やミレニアル世代で構成される将来の中国指導部も、より敵対的な姿勢を取る可能性がある。

ビジネスでも政治でも、外国発のアイデア(欧米流の民主主義やファッション)にもはや以前のような魅力はない。

The Conversation

Tom Harper, Lecturer in International Relations, University of East London

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 AI兵士の新しい戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月13号(1月6日発売)は「AI兵士の新しい戦争」特集。ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

シェブロン、ルクオイル海外資産入札でPEと連携 2

ワールド

イエメン分離派指導者、サウジ会合ボイコット 緊張緩

ワールド

英建設業、金融危機以降で最長の低迷 12カ月連続マ

ビジネス

フジHD、旧村上系がサンケイビル買収検討 情報リス
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 8
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 9
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 10
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中