最新記事

台湾半導体

半導体帝国・台湾が崩壊しかねない水不足とアメリカ台頭、隙を狙う中国

SILICON SHIELD GOING DOWN?

2022年12月14日(水)17時03分
フレデリック・ケルター(ジャーナリスト)
TSMC

台湾では半導体産業が特権的地位にある(新竹のTSMC本社)LAM YIK FEIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<GDPの約35%を占める半導体で世界を牽引してきた台湾だが、無防備ゆえに逆に足かせになる可能性も。巨額のカネで狙う中国への抵抗力が蝕まれれば、地政学リスクも>

冷え込む一方の米中関係は、テクノロジー分野でも本格的な対立に突入した。アメリカでは8月に、国内の半導体産業を強化する「CHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法」が成立。米バイデン政権は10月にも、半導体関連製品の中国への輸出規制を強化すると発表した。

一連の措置の目的は、先端半導体の開発・生産に必要な装置や設計の対中輸出を制限して、将来的にアメリカが先端半導体を安定して入手できるようにすること、そして同様のアクセスを中国に与えないことだ。

冷蔵庫や電動歯ブラシなど無害な製品から、巡航ミサイルや戦闘機など無害とは言えないものまで、半導体は現代の電子機器の至る所に使われている。電子機器や技術が進歩し続ける限り、その中の半導体部品も進歩しなければならず、技術革新の最前線に立つためには最先端の半導体が不可欠だ。

だからこそ、8月と10月にアメリカが取った政治的措置は画期的だった。従来のように限定的で象徴的な貿易関税を設定するものではなく、中国の技術開発を今後数十年にわたり衰弱させ、停滞させる可能性を持っている。中国は高性能の半導体へのアクセスについて、アメリカの技術に依存しているからだ。

アメリカは明らかに、新しい時代に移行しつつあるようだ。過去数十年のように米中の貿易関係を促進する方向から、冷戦型の封じ込め戦略に大きく舵を切っている。

このように米中の衝突が激しくなるなか、台湾はそのはざまに立たされている。今日のグローバル経済で、台湾を抜きに半導体のサプライチェーンを語ることはできない。台湾は世界の半導体の大半と、先端半導体の大多数を生産している。

なかでも台湾積体電路製造(TSMC)は、世界の半導体生産市場で53.4%という驚異的なシェアを誇り、電子機器に使われる最先端半導体の92%を供給している。

TSMCは世界でも指折りの収益性の高い企業になり、昨年は中国のネットサービス大手、騰訊(テンセント)を抜いてアジアで最も時価総額の高い企業になった。半導体産業全体で台湾のGDPの約15%を占め、TSMCだけで台湾の株式市場の価値の約3分の1を占める。

電子機器の世界的なサプライチェーンでTMSCが支配的な地位を占めていることは、台湾に多額の資金をもたらした。そのおかげで、パンデミックのピーク時に他の国々が経済全体の崩壊を防ぐために苦労していた時期も、台湾は成長率を維持することができた。

しかし、半導体産業が米中の地政学的な争いに巻き込まれ、さらには半導体生産が国内の資源を圧迫している今、台湾が半導体に見る夢は悪夢に変わりつつあるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中