最新記事

台湾半導体

「半導体の巨人」TSMC 中国、アメリカ、台湾を渡り歩いた創業者の生涯

MORRIS CHANG

2022年12月27日(火)16時40分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
モリス・チャン

BILLY H.C. KWOKーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<台湾を半導体生産大国へと導いたTSMC創業者のモリス・チャン。米中対立が激化するなか、世界の半導体供給のカギを握るチャンは引退後も影響力を持つ>

張忠謀(モリス・チャン)が語れば、世界は耳を傾ける。何しろ彼が1987年に創業した台湾積体電路製造(TSMC)は、世界で使われている先端マイクロチップの半分以上を製造している。米中の対立が激化するなか、半導体の安定供給の確保を含めて、台湾を中国から守りたいという国は少なくない。

チャンは1931年に中国で生まれ、両親と共に共産主義から逃れて香港に移住した。49年にアメリカに留学し、マサチューセッツ工科大学とスタンフォード大学で学位を取得。半導体大手テキサス・インスツルメンツで副社長まで昇進した。85年に半導体産業の育成のため台湾政府に招聘され、第2のキャリアを築き上げた(ちなみに、創業当初にインテルに出資を打診して断られた)。

TSMCの成功のカギは、製造と設計を分離して、効率性を著しく高めたことだ。それまでインテルなどの半導体メーカーは、基本的に両方を行っていた。しかし、分業が進み、エヌビディアなど創造性に富んだ多くのスタートアップが設計に特化して、製造に特化したファウンドリ企業のTSMCに製造を委託した。

テクノロジー製品の普及を追い風に、TSMCは成長を遂げた。2022年12月現在の時価総額は4110億ドルで、インテルやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の3倍以上だ。

18年に信頼する部下にバトンを渡したチャンは、自伝を書き、ブリッジを楽しみ、アーティストで慈善家の妻と旅行をするなど穏やかに暮らしている。一方で、11月には台湾総統の特使としてAPECに6回目の出席。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席など世界の指導者と言葉を交わしてもいる。

20240423issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月23日号(4月16日発売)は「老人極貧社会 韓国」特集。老人貧困率は先進国最悪。過酷バイトに食料配給……繫栄から取り残され困窮する高齢者は日本の未来の姿

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%

ビジネス

日産、EV生産にギガキャスト27年度導入 銅不要モ

ビジネス

米アップル、ベトナム部品業者への支出拡大に意欲=国

ビジネス

アムンディ、米ビクトリーの株式26%取得へ 米事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中