最新記事

中国経済

中国は「GDPアメリカ超え」を諦め、ゼロコロナを突き進む

XI MISSES THE MARK

2022年11月23日(水)11時40分
ジョン・フェン(本誌記者)
習近平

習近平は政治の権力を握ったが経済面は難問だらけ(10月23日の党大会の閉幕時) XINHUA/AFLO

<習近平はこっそりと野望を放棄していた。人口減少の危機が迫り、成長減速の構造的な主因は放置。「来年後半まではこの状態が続く」と専門家。さらにはアメリカの規制が中国のAIやEVの産業を衰弱させるだろう>

アメリカに追い付け、追い越せの夢は捨てたのだろうか。

10月に開かれた中国共産党第20回全国代表大会の初日、政治報告に立った習近平(シー・チンピン)総書記の口ぶりからは、経済成長の減速という現実を受け入れ、建国100周年に向けた長期計画の見直しを余儀なくされたことがうかがえた。

中国政府は2049年までに「全面的な社会主義現代化強国」を築くという壮大な目標を掲げており、その前段として2035年までに国民所得を引き上げ、経済規模を倍増させるとうたっている。

多くのエコノミストによれば、この「2035年目標」を達成するためには最低でも年率5%の経済成長を維持する必要がある。

この5%という数字は、以前ならかなり現実的な目標に見えた。それを続ければGDPでアメリカを追い越すのは時間の問題と思えた。

世界銀行によれば、2021年のGDPはアメリカが約23兆ドルで、対する中国は17兆7300億ドルまで追い上げている。

「社会主義現代化の基本的実現」を目指す2035年目標は2年前に発表され、15年あれば達成可能とされていた。しかし今回の政治報告では、そこまで勇ましい発言はなかった。

2年前の習は、2035年までにGDPの総額と国民1人当たりGDPを倍増させるのは「完全に可能」だと言っていた。だが今回、GDP倍増に関する言及はなかった。

シカゴ在住の経済アナリストで、米ポールソン研究所の研究員でもある宋厚沢(ソン・ホウツォー)はこの点について、中国政府は「世界一の経済大国になるという野望をこっそり放棄」したらしいと評している。

2年前の2035年目標ではGDPの総額と国民1人当たりGDPの両方について具体的に言及したが、「習は今回の報告でGDP総額に言及せず、国民1人当たりの所得に関する新たな目標にしか触れていない」と宋は言う。

なお2035年目標の起草時には、2020年に実施された国勢調査の結果がまだまとまっていなかった。

「当初のGDP目標を断念した理由は、主として2つある」と宋は本誌に語り、こう続けた。

「まずは中国政府が、自国の人口減少が想定よりも早く始まりそうだという事実に気付いた。人口が減り続ければ、高い成長率の維持は難しい」

「第2に、GDPの増大という目標が以前ほど重視されなくなった。5.5%成長の目標が達成されなくても構わない――今はそう考えているように思える」

台北にある国防安全研究院の準研究員でエコノミストの林雅鈴(リン・ヤーリン)は、「経済発展に関する中国の目標は変化してきた。かつては高度成長に突き進んでいたが、今は成長の質を重視している」と述べ、さらにこう分析する。

「ここ数年は環境への配慮やバランスの取れた発展を重視する傾向にある」

中国は自国の経済を再編し、半導体などのハイテク分野を強化したい。「今の中国は過去の『大きいだけで強くない』状態を脱して強国となり、本格的にアメリカと競い合おうとしている」と、林は考える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中