世界の港を次々と支配する中国...国有「海運」企業が遂に「正体」を露わにし始めた

BUSINESS OR POWER?

2022年11月3日(木)13時41分
ディディ・キルステン・タトロブ(本誌米国版・国際問題担当シニアリポーター)

「コスコ・グループは中国で唯一の海運会社と言っていい」と、独キール世界経済研究所のロルフ・ラングハマー教授は語る。このため同社は、中国の輸出業者や外国の港湾に対して著しく大きな影響力を持つ。

世界の貿易に占める中国のシェアは約15%(アメリカは約8%)。「だからコスコ・グループは、『おたくの港の運営に関わらせてくれないなら、中国からの商品を別の港に届けてもいいんだけど』と脅すことができる。これは国有企業だからできることだ」と、ラングハマーは語る。

コスコ・グループは2016年、世界の貿易で中国が圧倒的な地位を獲得するための「大掛かりな戦略的措置」として、複数の国有企業を合併して設立された持ち株会社だ。中国は世界貿易の「強力な重力場」でなければならないと、李克強(リー・コーチアン)首相は21年に語っている。国有企業だから、経営幹部は中国共産党の人事を担当する中央委員会組織部によって任命される。実際、許立栄(シュー・リーロン)会長は同社の党委員会書記でもある。

221108p44_bop02.jpg

16年、海運大手コスコ・グループはギリシャ・ピレウス港の株式の過半数を取得。写真は取引を成立させた直後の許会長 PANAYOTIS TZAMAROSーPACIFIC PRESSーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

船内に「共産党特別委員会」

表紙に「内部資料」と書かれたコスコ・グループの船員向け小冊子(約70ページ)からは、船内での党活動を垣間見ることができる。船内の「党特別委員会」には、軍事委員とさまざまなレベルの船員が属している。船内各所には党の理念や規律が記された小冊子が常備されており、テレビ画面には中国指導部のメッセージが映し出される。

本誌の調べでは、コスコ・グループで党委員会が設置されている船舶は40隻ある。また、リークされた党員名簿によると、ギリシャのピレウス港を運営する党委員会には64人、ニューヨーク港に23人、アフリカに52 人、インドネシアのスラバヤ港には24人のメンバーが在籍している。中国共産党は、世界の海でも港でも積極的な活動を展開しているのだ。

コスコ・グループの船員管理会社である中遠海運船員管理の場合、船員に約1万人の一般党員のほか、150人の特殊党員がいると、同社の党委員会書記を務める韓超(ハン・チャオ)会長は19 年の報告書で明らかにしている。

例えばコスコ・グループのコンテナ船ローズ号では、「船の党委員会が、党の最新の理論的成果を船員たちに教育している」と、報告書にはある。さらに、あれこれ抽象的なドグマを並べた上で、ローズ号党委員会は「大衆を結束させる中核であり、困難を乗り越えるためのとりで」だと、報告書は締めくくっている。

「(海外の港にいる間)船員は外国の敵対勢力による工作を阻止し、自分の権利と利益を守らなければならない」と韓は述べ、政府の「外交に関する規律」に従うことを船員に求めた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン

ワールド

トランプ氏、ウクライナに合意促す 米ロ首脳会談は停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中