最新記事

中国

習近平に仕える6人の「無力な男たち」...それでも、彼らであるべき理由があった

Xi’s Men

2022年11月1日(火)19時28分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
中国最高指導部

7人の最高指導部を含む政治局員の顔触れが決定して、習近平総書記は異例の3期目入りを果たした TINGSHU WANGーREUTERS

<中国の新しい共産党政治局の常務委員は、習近平に忠実なだけの地味で無力な60代の男ばかり──いったいこの男たちは何者なのか>

世界の注目を集めた中国共産党の第20回全国代表大会も、終わってみれば習近平(シー・チンピン)の独り勝ちだった。かつて有力だった中国共産主義青年団(共青団)の残党は一掃した。前任者の胡錦濤(フー・チンタオ)は閉会式の途中で退席させた。党規約の改正では、自らの「核心」的地位の擁護を盛り込ませた。そして党政治局の常務委員(最高指導部)は全て身内で固めた。

今回の人事には、党内派閥への配慮もなければ、経済界の改革派を抱き込む意図も感じられない。改革派に近く、一定の実績もある胡春華(フー・チュンホア)と汪洋(ワン・ヤン)は共に降格処分。現役の常務委員だった汪は200人以上いる中央委員の名簿にも載っておらず、胡春華も24人の最高幹部で構成する政治局に残れなかった。

中国研究では評価の高い米シンクタンク「マクロポロ」が1000人を超す専門家の予測を調べてみたところ、習近平を除く新常務委員6人の顔触れを完全に言い当てた人は皆無だったという。

それでも、この6人の顔触れを眺めてみると、いくつかの共通項が見つかる。例えば、全員が漢民族で60代の男性だということ(ちなみに女性が常務委員に選ばれた例は過去に一度もない)。

みんな60代という点は重要だ。最年少の丁薛祥(ティン・シュエシアン、60)でさえ、習より9歳若いだけ。5年後に習がおとなしく引退する可能性は極めて低く、その5年後だと丁も70歳を超える。だからこの男が次の党総書記(兼国家主席)になる可能性はゼロに近い。

残る5人の年齢は習と近いので、どう見ても後継者にはなれない。2007年の党大会で常務委員に昇格したときの習は54歳、一緒に昇格した李克強(リー・コーチアン)は52歳(現職の首相だが今回引退が決まった)。だからこそ次世代のホープと見なされたのだった。

周囲を「弱者」で固める

しかもこの6人には、習のような地縁血縁がない。政治的な地盤も派閥の後ろ盾もない。中華民族主義者の王滬寧(ワン・フーニン)は長老たちにかわいがられてきたが、それだけのことだ。要は中国政治に詳しいビクター・シーが新著『弱者の連合』で言ったとおり。かの毛沢東をはじめとして、強力な指導者ほど、あえて政治的に無力な者を登用して、自分の立場が脅かされるリスクを減らしてきた。それが中国の歴史だ。

新体制の常務委員6人は、いずれも習近平だけが頼りで、ほかに有力な後ろ盾を持たない。仮にも習が失脚すれば、道連れは必至だ。

それにしても、なぜこの6人なのか。現時点で分かる限りで、彼らの立ち位置を探ってみた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

基調的な物価上昇率、徐々に高まり 見通し期間後半は

ワールド

米中外相が北京で会談、中国のロシア支援など協議

ワールド

中国全人代常務委、関税法を可決 報復関税など規定

ワールド

エクイノール、LNG取引事業拡大へ 欧州やアジアで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中