最新記事

パンデミック

「ウイルスが漏れ出す......」北極が新たなパンデミックの温床となることがあきらかに

2022年10月24日(月)17時00分
松岡由希子

カナダ最北の湖とも言われることがあるヘイゼン湖で調査が行われた...... (Graham Colby)

<カナダ・オタワ大学の研究チームによって、地球温暖化と氷河融解に伴って北極が新たなウイルスのパンデミックの温床となるおそれがあることが明らかとなった......>

地球温暖化と氷河融解に伴って北極が新たなウイルスのパンデミックの温床となるおそれがあることが明らかとなった。その研究成果は2022年10月19日付の「英国王立協会紀要B」で掲載されている。

「高緯度北極圏はパンデミックが出現する温床となるおそれがある」

カナダ・オタワ大学の研究チームは2017年5月10日から6月10日にかけて、北極圏北部で最大の容積を持つヘイゼン湖の土壌と湖沼堆積物の試料を採取した。研究チームはまず、これらの試料のRNAとDNAを解析して既知のウイルスやその宿主となる動物、植物、真菌類と一致するシグネチャーを特定。さらに、独自に開発したアルゴリズムを用い、ウイルスのスピルオーバー(溢出)のリスクが氷河の流出によってどのような影響を受けるのかを算出した。

その結果、氷河からの融氷水がより多く含まれる水路で採取した試料ほど、このリスクが大きいことが示された。研究論文の責任著者でオタワ大学のステファン・アリス=ブロソ准教授は「氷河融解からの流出によってウイルスのスピルオーバーのリスクが高まることがわかった」とし、「ウイルスの媒介者や貯蔵庫となる種の生息域が気候変動によって北上すれば、高緯度北極圏はパンデミックが出現する温床となるおそれがある」と警鐘を鳴らす。

スピルオーバーリスクの増加と種の分布域の北上

進化の観点でみると、ウイルスはその自然宿主と系統学的に近い宿主に感染しやすい。遺伝子的に類似した種はウイルスにとって感染しやすく、定着しやすいためだ。しかし実際、ウイルスのスピルオーバーのリスクには様々な要因が影響する。気候変動に伴って北極の微生物叢の代謝活動が変化し、その結果、新たな病原体の出現など、多くの生態系プロセスに影響をもたらすおそれもある。

北極圏は気候変動の影響をもっとも受けやすい地域の一つだ。過去20年間で、北極海の冬季の氷の3分の1が消失している。これにより、動物やヒトがますます近くに住むことを余儀なくされている。

研究論文では「スピルオーバーリスクの増加と種の分布域の北上という気候変動の二重の作用が、高緯度北極圏に大きな影響を及ぼすおそれがある」と結論づけたうえで、「人々の健康や経済などへの影響を軽減するためには、このリスクを実際のスピルオーバーやパンデミックと切り離し、サーベイランスと並行して取り組むべきである」と提唱している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BofA、プライベートクレジットに250億ドル 米

ビジネス

IMF報道官、ドル相場「歴史的平均に近い」 25日

ビジネス

ブルー・アウルがファンド資産14億ドル売却、プライ

ワールド

ベネズエラ製油所、処理能力の35%に稼働率上昇=関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 5
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 6
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 7
    カンボジア詐欺工場に「人身売買」されたアフリカ人…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中