最新記事

フィリピン

「父マルコスは独裁者ではなく戒厳令は必要だった」 マルコスJr新大統領が擁護発言、波紋広がる

2022年9月15日(木)19時00分
大塚智彦

インタビューの背景に復権目指す一族

マルコス大統領はこうした「歪曲された現代史」に関して歴史の教科書は「事実に反しているものは修正する必要がある。解釈ではなく事実に基づいて検討されるべきである」と述べ学校の歴史教科書問題に踏み込んだ発言となった。

こうしたインタビューが全国放送された背景には父のマルコス元大統領の歴史上の評価を見直し、マルコス一族がフィリピンに数々の貢献をしてきたことを強調することで自らの存在感を国民にアピールする狙いがあるものとみられている。

5月の大統領選挙ではマルコス大統領は圧倒的多数の票を獲得して選出され、その人気と支持は盤石だった。その多数の国民の支持を「歴史を見直すことで父の名誉回復の起爆剤にしたい」との思惑がマルコス大統領にはあったとの見方が有力だ。

マルコス大統領は歴史修正主義者?

このインタビューが放映された後、左翼系活動家グループの「バヤン(新民主主義者同盟)」はマルコス元大統領が戒厳令を発出したのは「選挙を廃止して自らの任期を延長し、議会を解散して自らに権力を集中するためであり、独裁者以外の何者でもない」として、マルコス大統領による「戒厳令は必要だった」との主張を「嘘である」と批判した。

バヤンのレナート・レイエス事務局長は地元マスコミに対してマルコス大統領による今回の発言は「歴史的な事実を必死に消し去ろうとしている」と厳しく非難した。

国際的な人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、フィリピンでは1972年の戒厳令布告から1981年の戒厳令解除までのマルコス元政権下で7万人から7万2000人が投獄され、3万4000人が治安当局から拷問を受け、3240人が殺害されたとしている。

今後フィリピンでは「マルコス元大統領」や「戒厳令」の評価、さらに歴史教科書の修正問題などの議論が世論の動向を踏まえて実施されるものとみられるが、圧倒的多数の国民の支持で当選したマルコス大統領の父への熱い思いがどこまで実を結ぶかが注目されている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、マクロン氏とパリで会談 「持続可能

ビジネス

ビットコイン再び9万ドル割れ、一時6.1%安 強ま

ワールド

プーチン氏、2日にウィットコフ米特使とモスクワで会

ビジネス

英住宅ローン承認件数、10月は予想上回る 消費者向
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カ…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中