最新記事

北朝鮮

金正恩の危ない「戦術核」遊戯...核搭載の短距離ミサイル配備が意味すること

North Korea’s Dangerous Turn

2022年9月15日(木)17時21分
アンキット・パンダ(カーネギー国際平和財団シニアフェロー)
金正恩

4月、「新型戦術誘導兵器」の発射実験を視察する金正恩 KCNAーREUTERS

<北朝鮮が核兵器搭載の短距離ミサイル配備に舵を切れば、朝鮮半島の「有事」と「核抑止力」の意味が変わる>

2021年1月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記は自国と世界に向けて兵器開発の5カ年計画を発表した。核抑止力の近代化に関する壮大で野心的な計画には、これまで公に語られなかった戦術核兵器も含まれていた。

北朝鮮が戦術核兵器を開発して最終的に配備することは、朝鮮半島の平和と安全にとって、アメリカ本土を射程内に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発に成功して以来の深刻なマイナス要因になるだろう。核のエスカレーションのリスクが高くなり、核事故の可能性がはるかに大きくなって、米韓同盟への圧力もいっそう高まる。

戦術核兵器には、普遍的な定義がない。核を使う時点で兵器の「戦術的」な配備とは言えなくなるという議論があり、核兵器の使用はあらゆる場所で「戦略的」な意味を持つという考え方もある。とはいえ、戦術核には一般的な特徴が3つある。

第1の特徴は、核爆発の規模を意図的に小さくしていることだ。「戦術的」とされる核兵器の中には、1945年にアメリカが広島と長崎に投下した原子爆弾が放出したエネルギー量にかなり近いものもあるが、核出力としては、(北朝鮮が保有する核兵器も含めて)現在の核兵器の中で著しく破壊的なものに比べると、相対的に小さいと言える。

戦術核の第2と第3の特徴は、北朝鮮の核開発が分かりやすく説明している。第2の特徴は、比較的短距離の射程で目標に到達することだ。北朝鮮は今年4月に戦術核の実戦配備を想定したとみられる短距離ミサイルの発射実験に成功したと発表。その飛行距離は約110キロだった。

「斬首作戦」に対抗措置

第3の特徴は、戦術核兵器を保有する国が、その使用権限をハイレベルの政治指導者から、比較的低いレベルの軍司令官に委譲しようとする傾向があることだ。

北朝鮮では現在、核兵器使用の命令を下すことができるのは金正恩だけだ。その権限を委譲することは、朝鮮人民軍の一部に対して金の権力が希薄化する恐れがある。

しかし、抑止力の論理からは、権限の委譲は魅力的かもしれない。韓国は16年以降、北朝鮮の核使用を想定した作戦とはいえ、朝鮮半島有事の際に金を殺害する「斬首作戦」とその能力を保持していることを隠そうとしていない。

実際、北朝鮮では権限委譲の方向に動いているのではないかという気配がある。今年6月に金は朝鮮労働党中央軍事委員会拡大会議に出席。戦術核兵器についても議論されたとみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ロス山火事、鎮圧後にくすぶる「鉛汚染」の

ワールド

トランプ氏、貿易協定後も「10%関税維持」 条件提

ワールド

ロシア、30日間停戦を支持 「ニュアンス」が考慮さ

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円・ユーロで週間上昇へ 貿易
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 7
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 8
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 9
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 10
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中