最新記事

北朝鮮

金正恩の危ない「戦術核」遊戯...核搭載の短距離ミサイル配備が意味すること

North Korea’s Dangerous Turn

2022年9月15日(木)17時21分
アンキット・パンダ(カーネギー国際平和財団シニアフェロー)

220920p38_KTA_02.jpg

3月、平壌から発射された新型大陸間弾道ミサイル「火星17」 KCNAーREUTERS

国営メディアによると、金は「前線部隊の作戦能力を強化するための重要な軍事的措置を採用する」と決定。さらに、今年4月の短距離ミサイル実験後と同じような言葉で、前線部隊に核兵器の使用権限が委譲される可能性があることを示唆した。

金としては、平時の核兵器使用の権限まで事前に委譲する必要は必ずしもない。有事にのみ委譲すると決めて、それをアメリカや韓国に対して公に示すことにより、自身や体制に対する攻撃の抑止力を強めようとすることもできるだろう。

北朝鮮はこれまで、核・ミサイル能力が変化しても広範な核戦略はほとんど変わっていなかった。しかし、戦術核兵器の開発は、北朝鮮の核戦略が理論上は発展していることを示唆する。北朝鮮の核戦略は常に、通常戦力で自分たちより優勢な敵に対し、核兵器を先制使用する権利を有することを前提としている。

金正恩体制において、少なくとも13年以降、北朝鮮は核兵器保有の主要な目的を2つ挙げている。1つは、自国領土への侵攻を抑止すること。もう1つは、抑止に失敗した場合に自国領土への侵略を「撃退」することだ。これらの目的は、13年に制定された核保有国としての地位を定める国内法に明記されている。

今年4月に朝鮮人民革命軍創設90周年の軍事パレードで行った演説でも、金はこれらの目的を繰り返し述べた。ただし、自国の戦術核兵器はより有効性が高いと認識しているだろう北朝鮮の指導部は、有事の際に核による威嚇をエスカレートさせかねない。

アメリカは日韓の都市を守ると保証できるか

アメリカと韓国にとって当面、戦術核兵器は深刻な問題になるだろう。北朝鮮は長年にわたって、核兵器の開発を通じて米韓同盟に圧力をかけようとしてきた。ここ数年、アメリカにとっての重要な課題は、たとえ北朝鮮のICBMに対して脆弱なアメリカの都市が危険にさらされても、韓国(と日本)の都市を守ると保証することだった。

別の問題もある。北朝鮮の戦術核兵器の問題にどう対処するかについての、韓国とアメリカの意見の相違だ。韓国は、北朝鮮に対する軍事計画の中核である先制攻撃を重視する可能性がある。

しかしアメリカは、相手を圧倒する能力があることを示して攻撃を断念させるという「拒否的抑止」を重視するかもしれない。つまり、北朝鮮の戦術核兵器が米韓同盟の軍事作戦継続能力に与える影響は取るに足りないと、北朝鮮に伝えようとする。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中