最新記事

宇宙

地球外生命体がいる可能性が最も高い「TRAPPIST1惑星系」、残る未確認の要素は?

Something in the Air

2022年9月15日(木)18時12分
エド・ブラウン(本誌科学担当)
TRAPPIST1の惑星系

TRAPPIST1の惑星系と1fと呼ばれる惑星の想像図 NASA/JPL-CALTECH/T. PYLE (IPAC)

<「NASA史上最強」のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、近傍の太陽系外惑星に生命の痕跡を発見できるか>

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測データによって、近傍の太陽系外惑星に生命が居住可能かどうかが明らかになる――科学者たちはそう考えていると、NASAの専門家は言う。

NASAの宇宙生物学者ショーン・ドマガルゴールドマンによれば、JWSTは地球から約40光年先にある小さな赤色矮星TRAPPIST1の周囲を公転する惑星のいずれかに大気があるかどうかを判断できるはずだという。もしこれらの系外惑星が「適切な」大気を持っていれば、生命が存在する可能性もある。

発見された系外惑星の数は増え続けているが、宇宙から降り注ぐ電波を何十年スキャンしても、地球外生命の証拠は見つかっていない。

TRAPPIST1の周囲を回る惑星は少なくとも7つ。一部は理論上生命の居住に適した条件を持つハビタブルゾーン(生命居住可能領域)の範囲内にあり、実際に生命が存在できる惑星の有力候補と考えられている。

220920p56_UCY_02.jpg

TRAPPIST1の惑星系 NASA/JPL-CALTECH/R. HURT, T. PYLE (IPAC)

予備調査の結果、いくつかの惑星は岩石質で、温和な気候を持つ可能性があることが判明した。ただし、肝心の大気の存在については、これまで結論が出ていなかった。

だが昨年12月に打ち上げられたJWSTが、問題を解決してくれそうだ。NASA史上最強の宇宙望遠鏡であるJWSTは、巨大な鏡の列を駆使して可能な限りの光を捕捉し、宇宙をのぞき込む。既にこれまでで「最も深い」宇宙の赤外線画像を撮影した。最近はTRAPPIST1の惑星系観測にも取り組んでいる。

「これらの惑星に大気があるかどうかは、誰にとっても興味深いことだと思う」と、ドマガルゴールドマンは言う。「それが居住可能性の絶対条件だから。月は地球と同じく太陽から多くのエネルギーを得ているが、大気がない。そのため海もなく、地球のような生物圏もない」

生命存在の前提となる大気の有無

対照的にTRAPPIST1系の惑星は、その質量からみて十分に大気を保持できるだけの重力がある。ただし、主星のTRAPPIST1が爆発的な高エネルギー放射(恒星フレア)によって惑星の大気を吹き飛ばすほどの激しい活動を過去にしてきたかはまだ分かっていない。

「この惑星系が生命の居住に適しているかどうかを知るためには、まず大気の有無を知らなければならない。そのための最も簡単な方法がJWSTによる観測だ」と、ドマガルゴールドマンは言う。

TRAPPIST1系の惑星のいずれかで大気が見つかれば、次の問題は「その惑星は何でできているのか」だ。

これには、より複雑なプロセスが必要になる。具体的には、「透過光分光」と呼ばれる技術による惑星の詳細な観測だ。研究者はJWSTを使い、主星TRAPPIST1の光が惑星の大気中を通過するたび、その光を観測する。

もしこの光が酸素、二酸化炭素(CO2)、水蒸気、メタンなどの気体を通過していたら、その痕跡をJWSTが捕捉できるはずだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国大統領選、与党候補に金前雇用相 韓前首相も出馬

ワールド

ルーマニア大統領選、極右候補が決選投票へ 欧州懐疑

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃拡大へ 治安閣議で承認=報道

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官の後任にミラー次席
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 5
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 6
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 7
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    「愛される人物」役で、母メグ・ライアン譲りの才能…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中