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ミャンマー軍政、学校をヘリから空爆 児童11人殺害し証拠隠滅のため遺体火葬

2022年9月21日(水)08時18分
大塚智彦

国連児童基金(ユニセフ)のミャンマー事務所は9月19日、この事件の詳細はまだ不明としながらも児童11人が死亡し、15人が行方不明であることを明らかにしており、今後犠牲者が増加する可能性がある。

これに対し軍政は「武装抵抗勢力が僧院学校に潜伏しており、児童らを人間の盾として利用していた」との声明を発表し、攻撃や児童殺害を正当化した。

軍政は声明の中で、僧院学校には武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」のメンバーや、軍との戦闘を繰り返している隣接するカチン州を活動拠点とする少数民族武装勢力「カチン独立軍(KIA)」の兵士らが潜んでいたとしている。

これに対して地元のPDFは「空爆当時、僧院学校にはPDFやKIAのメンバーは誰一人としていなかった。軍は嘘をついている」と反論している。

ASEANの方針転換にも影響か

ニューヨークでの国連総会に出席しているマレーシアのサイフディン・アブドラ外相は、9月19日に記者会見でミャンマーの反軍政組織として抵抗を続けている「国民統一政府(NUG)」と接触したことを明らかにした。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国がNUGメンバーと接触するのは初。同外相は今後ASEANとしてミャンマー問題への取り組みを見直す方針を示した。

この会見でサイフディン外相は16日に起きた軍による僧院学校襲撃で多数の児童が不犠牲になったことが伝えられるなか、NUGとの面談に臨んだことを明らかにしている。

こうした軍による民間人、特に子供や女性への無差別攻撃や虐殺、レイプは重大な人権侵害であるとして国際的な人権団体などから軍政とその指導者であるミン・アウン・フライン国軍司令官に対する厳しい非難が浴びせられている。

ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると2021年2月1日のクーデター以降、9月19日までの軍による民間人の殺害は2299人にのぼり、逮捕者は1万5571人に達しているという。

出口の見えないミャンマー問題は、ASEANによる和解調停努力にも関わらず、ますます混迷の度を深めている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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