最新記事

ウクライナ情勢

本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ

Putin’s Botched War

2022年8月30日(火)16時13分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

複数の米情報筋によれば、プーチンは将軍たちに激怒している。

だが最大の失態はプーチン自身が4方面作戦──北は首都キーウ、東はウクライナ第2の都市ハルキウ(ハリコフ)、南東はドンバス地方、南西は港湾都市オデーサ(オデッサ)──に固執した点にある。

短期決戦を前提に戦線を拡大したプーチンには長期戦に備える戦略がなく、代替策もなかった。

今のロシア軍はミサイルの在庫が手薄で、発射数を増やすことはできない。ウクライナ領内へロシアの爆撃機を飛ばすのも難しい。ウクライナの防空システムがしっかり機能しているからだ。

ロシア地上軍は戦力の3分の1以上を失い、攻勢に出る余力はない。ロシアとて無限の戦争能力を持っているわけではない。それでもプーチンは軍隊を前へ、前へと動かす。これは敗北への道だ。

ウクライナ側の損失も大きいが、今やロシア軍の7倍の兵力を動員できる。ウクライナの兵力は、報道されているよりもずっと多い。しかも新規の志願者が殺到している。

欧米にはまだ約20年前のイラク戦争時代の戦争観が残っていて、ウクライナ側の優位性を見落としがちだが、今の戦争は量より質の勝負。数字は当てにならず、ものをいうのは最新兵器の威力だ。

軍隊はたくさんの武器、たくさんの爆弾を欲しがるものだが、少数でも精度の高い兵器を用いて標的を正確に攻撃できれば、より大きな戦果を得られる。この点でウクライナはロシアの上を行く。

「西側の、そしてウクライナの決意を砕けると考えたプーチンは間違っていた」とCIAのバーンズは言う。そして計算違いに気付いたプーチンは「目的を縮小した」とみている。もはやウクライナ全土の支配はもちろん、ドンバス以遠の領土を奪うつもりもないという見立てだ。

開戦からわずか3週間で、プーチンは首都キーウ制圧を断念した。そして現場の指揮官を次々と解任し、入れ替えた。複数の米政府筋によれば、プーチンは情報機関のトップや国防相とも争い、異論を唱える者を遠ざけている。

そして現場の指揮官をさらに混乱させた。南部戦線の拡大にこだわり、ウクライナの黒海沿岸部の制圧を命じたことで、軍隊はドンバス地方の占領地確保という本来の任務に集中できなくなった。

これでプーチンと制服組の溝が広がったと、英軍情報部のジム・ホッケンハル中将は8月初めに指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英財務相、予算案で個人所得税を増税する方針=報道

ワールド

原油先物、小幅反発も2週連続下落見通し 供給懸念が

ワールド

政府、対日投資の審査制度を一部見直しへ 外為法の再

ビジネス

日経平均は5万円割れ、一時1000円超安 主力株が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中