最新記事

ウクライナ情勢

本人も困惑している「プーチンの負け戦」──主導権はウクライナ側へ

Putin’s Botched War

2022年8月30日(火)16時13分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

禁じ手を使って兵士集め

米軍の情報部高官も、「プーチンの政治的な口出しが大損失をもたらしている」と本誌に語った。

「プーチンは革新を口にしながら、意思決定の中央集権化を進めている。権限を分散させ、開放的にし、現場のイニシアチブとリスクを引き受けなければ、硬直した戦略に逆戻りだ。結果、ロシア軍は今も火力と長射程の大砲、MRL(多連装ロケット砲)とミサイルによる攻撃に依存している」

こうしてロシア軍は、じわじわと前進しつつも甚大な損失を出している。ウクライナ軍の背後を攻めるチャンスなど、ありはしない。

プーチンの欠点や失敗も大きかったが、この戦争はロシア軍の情けない状態を容赦なくさらけ出している。

このところロシア軍の新しい「ハイブリッド戦争」については多くのことが語られてきた。それは数的優位と特殊部隊やサイバー攻撃を組み合わせたものとされるが、ウクライナではどれも大きな効果をもたらしていない。

一方、戦車、歩兵、砲兵といった伝統的な軍隊は、組織の問題で弱体化した。蔓延する汚職、古風で有害ないじめの横行、戦う兵士の体力や精神状態を無視した冷酷な動員計画が現場の兵士に疲労と恐怖、士気の低下、反抗的な空気を生み出している。

情報筋によれば、戦場から逃げ出す兵士や戦闘を拒否する兵士の数は異常なほど増えている。一方で死傷したロシア兵は既に8万人に上る。

ロシア国防省は、軍隊に入れそうな人間を探し出しては強引に引き入れ、ボーナスや上乗せ手当を支給しているが、それでも兵員の供給が追い付かない状態だ。

ロシアの傭兵、とりわけ正規軍を補うという名目で編成された悪名高いワーグナー・グループについては多くの批判があるが、この戦争の遂行には彼らの存在が不可欠だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中