最新記事

中台関係

口先だけのアメリカに頼れない台湾の、パイロット不足の背景とは?

Facing a New Reality

2022年8月23日(火)13時19分
ヒルトン・イプ(台湾在住ジャーナリスト)

うち数発が日本の排他的経済水域(EEZ)に落下したため、日本の防衛省がミサイルの軌道を発表。その時初めて台湾の人々は自分たちの頭上をミサイルが飛んだことを知ったのだった。

台湾政府と民衆が平静を装っていても、中国の演習が新たな緊張をもたらしたことは否めない。今回の演習で中国の海・空軍が大挙して多方面から台湾周辺に迫る事態が「常態化」された。

演習中、中国の軍用機と艦船は台湾海峡の中央に引かれた中台を隔てる「中間線」を侵犯。中国は近年侵犯を繰り返しており、中間線は非公式な境界線としての意味を失いつつある。

それ以上に重要なのは、中国が台湾を包囲し攻撃し得る大規模な軍事行動を実行する能力と意思を見せつけたことだ。

アメリカは口先では中国を非難したものの、演習を止めたり妨害しようとはしなかった。ペロシ訪台時には原子力空母ロナルド・レーガンなど米海軍の艦船が台湾近海に派遣されたが、中国の演習が始まる前に撤収してしまった。

パイロット不足の空軍

演習は7日に終了する予定だったが、中国は土壇場でさらに2日間の続行を決めた。そして10日に公式に終了を発表した際には今後も台湾周辺で軍事パトロールを行うと宣言。台湾国防部によると、演習以降は中国の航空機と船舶が日常的に中間線を越えるようになったという。

いつもと変わらぬ人々の表情とは裏腹に、台湾軍の関係者は深刻な危機感を抱いているはずだ。中国軍機や艦船が周辺に出没するようになり、台湾軍は自軍をはるかに上回る中国の海・空軍力を目の当たりにすることになった。

台湾政府は徴兵制から志願制に段階的に移行し、現在は成人男性に4カ月の軍事訓練が義務付けられているだけだ。2月末のロシアのウクライナ侵攻を受けて、台湾当局は訓練期間を1年に延長することを検討し始めた。だが半年近くたった今も延長は決まっていない。

そうしたなか台湾空軍は戦闘機パイロットの不足に頭を抱えている。トランプ政権下でアメリカから最新鋭の戦闘機F16Vを66機購入する契約がまとまったが、その操縦要員を育てるには今のペースでは50年もかかる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中