最新記事

中台関係

それでも中国は「脅し」しかできない...どうしても台湾侵攻に踏み切れない理由

Will China Invade Taiwan?

2022年8月16日(火)18時32分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌副編集長)
台湾陸軍の射撃訓練

台湾陸軍は、南部・屏東で重砲射撃訓練を実施(8月9日) ANN WANGーREUTERS

<ペロシ米下院議長の訪台と、それに対抗する中国側の軍事演習で台湾情勢は緊迫。だが、武力侵攻という「Xデー」が来ない理由はこれだけある>

台湾周辺で約1週間にわたって軍事演習を続けていた中国が、8月10日に終了を発表した。同じ日、中国の対台湾政策を担当する台湾事務弁公室は22年ぶりに発表した白書で、武力行使は放棄しないとしながらも、台湾との「平和的統一」を強調した。

中国軍戦闘機などが、中台間の境界線とされる台湾海峡の中間線を越える事態は、今や「新常態」になりつつある。それでも、8月初めのナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問に対する中国の反発が、劇的にエスカレートする可能性はどうやら排除できそうだ。

中国がほぼ恒常的に台湾侵攻という脅しを繰り返すにもかかわらず、行動に踏み切らないのはなぜか。ペロシ訪台の余波のなか、その理由を考えることには意味がある。

台湾海峡で有事が起きていない要因は複数存在する。まず、中国は武力なしでも台湾はいずれ戻ってくると期待している。ただし台湾の世論調査を見ると、これは幻想としか思えない。自らを「中国人」と見なす回答者の割合は、30年前は25%を超えたが、今ではわずか約2%。背景には、世代交代による意識の変化や中国の人権侵害問題がある。

それでも中台統一は実現可能だと、中国の指導層は信じているのかもしれない。台湾事務弁公室は白書で、台湾市民は独立志向が強い与党・民主進歩党や欧米にだまされていると主張。台湾の世論調査結果は「誤解」だと、駐オーストラリア中国大使は発言した。中国の高官や当局者は、自国の体制について常習的に嘘をつくせいで、他国の事情も同じだと思い込んでいる。

1979年から中国は実戦経験ゼロ

もっとも、中国共産党指導部は強要や転覆活動によって台湾を屈服させられると考えている可能性のほうが高い。

対中融和路線の最大野党・国民党から犯罪組織まで、台湾のさまざまな組織との関係構築に、中国共産党は多くの時間とカネをつぎ込んできた。また中国指導部はアメリカが崩壊する可能性も考慮している。そうなれば、台湾は最大の庇護者を失うからだ。

中国が平和的統一はあり得ないと判断したとしても、台湾侵攻に伴うリスクは極めて高い。たとえアメリカが直接的に介入しなくても、侵攻が成功する保証はない。早期撤退という結果に終わった1979年の中越戦争以来、中国は実戦経験ゼロだ。

台湾侵攻は迅速かつ容易に完了するという中国の主張と裏腹に、侵攻には前代未聞の規模の陸海空共同攻撃が必要になるだろう。その上、攻撃相手の台湾は士気やロジスティクス面の問題を抱えるものの、ずっと前から侵攻に備えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、欧州で5500億円融資ファンド 米ベ

ワールド

シリア外相・国防相がプーチン氏と会談、国防や経済協

ビジネス

円安進行、何人かの委員が「物価上振れにつながりやす

ワールド

ロシア・ガスプロム、26年の中核利益は7%増の38
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中