最新記事

ウクライナ戦争

ウクライナ「クリミア奪還作戦」の2つの狙い

2022年8月15日(月)17時20分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
クリミア半島

8月9日、クリミア半島のロシア軍基地方面から爆発音と煙が…… SOCIAL MEDIAーREUTERS

<南部クリミア半島にあるロシア空軍基地が攻撃を受け、クリミアとウクライナ本土を結ぶ橋梁にも攻撃は及んだ。ウクライナ戦争は今、新たな展開を見せている>

ウクライナの当局者は、南部奪還を目指す反撃の第1段階と呼んだ。8月9日、ロシアが2014年に併合した南部クリミア半島にあるサキ空軍基地が攻撃を受け、8機以上の軍用機が破壊された。

ウクライナの反撃はクリミアとウクライナ本土を結ぶ橋梁にも及んだとみられる。橋への攻撃を機に、移住していたロシア人の大量脱出が始まった。

ドンバス地方の戦線が膠着するにつれ、ウクライナ側の関心は南部ヘルソン州に移っている。同地域は2月にプーチン大統領が本格的な侵攻を命じてからわずか数日でロシア軍に占領された。

ウクライナ政府はこの夏、ヘルソン占領を支えるロシアの補給網に打撃を与えるため、米政府に追加支援を求めてきた。

「全ての補給網の起点はクリミアだ」と、ウクライナ議会のサーシャ・ウスティノワ議員は言う。「今の私たちはヘルソンを取り戻し、ミコライウ州を維持すべく、南部での反撃に焦点を当てている」

今回の攻撃はウクライナ特殊部隊の手で実行されたと、ワシントン・ポスト紙は報じている。

この作戦をよく知るウクライナ当局者によれば、狙いは2つ──ヘルソンの占領軍を強化するロシアの補給線を断つことと、クリミアからウクライナへの長距離ミサイル攻撃を防ぐことだ。

ウクライナ空軍は、ロシア軍機9機を破壊したと発表している。あるウクライナ軍関係者は匿名を条件に、ロシアはサキ空軍基地に多用途戦闘機ミグ35と迎撃戦闘機ミグ31を配備していたと語った。

ウクライナのゼレンスキー大統領は攻撃直後のビデオ演説でウクライナの関与を明言しなかったものの、戦争終結までにクリミア半島奪回を果たすと宣言した。

ただし、ウクライナの当局者や議員によると、今すぐ奪還作戦に乗り出すわけではない。ここ数週間はヘルソンへのロシアの補給能力を弱体化させることに注力していたという。

この一帯をロシアに併合するための住民投票の計画は、ゲリラ戦を展開するパルチザンの激しい抵抗に遭っている。

ウクライナ議会のオレクシー・ゴンチャレンコ議員によれば、ウクライナ軍はヘルソン市南側の境界を形成するドニプロ(ドニエプル)川右岸にいるロシア軍の孤立化を図り、黒海の要衝スネーク島から撤退した6月末の再現を狙っている。

ウクライナ軍は既にヘルソン近郊の橋をいくつか爆破しており、7月には高機動ロケット砲システム(HIMARS)で戦略上重要なアントニフスキー橋を通行不能にした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、パキスタンによる国境全域での攻撃発表 パキ

ビジネス

日経平均は続伸、米英貿易合意や円安を好感 TOPI

ビジネス

日本製鉄、今期純利益は42%減の見通し 市場予想比

ビジネス

リクルートHD、今期10%増益予想 米国など求人需
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 7
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 10
    あのアメリカで「車を持たない」選択がトレンドに …
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中