最新記事

ミャンマー

日本人ジャーナリストと同日に拘束された現地人カメラマン、その日のうちに死亡 尋問中に暴行死か

2022年8月3日(水)17時40分
大塚智彦

関係者はRFAの取材に対し匿名を条件に、アイ・チョー氏の遺体に「胸部に検視の際のような縫合した後があった。これ以外には特に外傷もなく血や体液などの漏洩もなかった」ことを明らかにした。

またカメラマン仲間のひとりは匿名で「アイ・チョー氏の拘束中から兵士は自宅をくまなく捜索したが武器等不審なものは一切発見されなかった」と述べ、武器所持という容疑そのものが事実に基づかない「身柄拘束のための虚偽容疑」だった可能性も十分あるとみられている。

怯える市民、カメラマンたち

アイ・チョー氏は「アッパー・ミャンマー(ミャンマー上部=中部)写真協会」に所属しながら、ザガイン市内で「ハイマン写真スタジオ」を経営するなど、報道関係者の間で人気と人望がありつつ、地元では親しみやすい人柄で有名だったという。

2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍によるクーデターが発生後は、地元ザガイン地方を中心に取材活動を精力的に行い、主に反軍政を掲げる民主派市民のデモなどの活動をカメラに収め、SNSなどで発信していた。

その写真は民主派政治家や地元メディアなどに多く共有、拡散されたという。

反軍政デモに参加したザガイン市民などをアイ・チョー氏と一緒に取材したカメラマン仲間や地元報道関係者たちは、アイ・チョー氏が拘束されその日のうちに死亡したことを受けて、同様のことが自らの身に起こるかもしれない、との恐怖に怯えているという。

RFAによるとアイ・チョー氏と一緒に取材したことがあるという報道関係者は「兵士が突然自宅などにやって来て気に入らないものを発見したら恣意的な逮捕、殺害となる。法律なんてものはなく法律は兵士の銃口にある。兵士は何でも自分たちが望むことを実行するので、兵士が近くに来るだけで死刑が執行された気持ちになる」とザガイン市民の胸中を代弁したという。

RFAは軍政のゾー・ミン・トゥン国軍報道官とザガイン地方域の社会問題担当大臣のアイ・フライン報道官にアイ・チョー氏の死亡に関してコメントを求めたが8月1日現在返事はないとしている。

ミャンマーでは7月30日午後6時ごろ中心都市ヤンゴンの南ダゴン郡区で民主派のよる「フラシュモブ」といわれる少数、短時間のゲリラデモを取材中の日本人映像ジャーナリスト久保田徹氏が警察に拘束される事案も起きている。現地日本大使館などは「早期釈放」を求めているが、これまでのところ警察は久保田氏が拘束中であることは認めているが釈放は8月2日現在実現していない。

久保田氏、そしてミャンマー現地のカメラマンや報道関係者に軍政がどのような対応をするのか、世界が注視していくことが求められている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英企業、米国への投資意欲後退 自国評価は上向く=調

ビジネス

マクロスコープ:企業の中期計画公表、延期急増 トラ

ワールド

中国、農村労働者の再教育計画を発表 雇用支援へ=C

ワールド

サウジアラムコ、火力発電所最大5カ所の売却検討 4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中