最新記事

スリランカ

国民を「こじき」にした一族支配、行き過ぎた仏教ナショナリズム──スリランカ崩壊は必然だった

A Long and Winding Road to Ruin

2022年7月22日(金)18時20分
ニール・デボッタ(米ウェークフォレスト大学政治・国際関係教授)
首相府を占拠したデモ隊

ウィクラマシンハ首相の退陣を求めて、7月13日に首相府を占拠したデモ隊 ABHISHEK CHINNAPPA/GETTY IMAGES

<怒れる民衆が大統領府・公邸に突入、大統領は国外へ逃亡。未来を窒息させ、歴史的危機を招いた根本要因は偏狭なナショナリズムにある>

スリランカの悲しくも無惨な歴史に、また1つの大きな転機が訪れた。去る7月9日の土曜日、怒れる民衆が大統領府に、そして大統領と首相の公邸に詰め掛け厳重なバリケードを突破し、治安部隊の殴打や催涙ガス攻撃にも耐えて果敢に前進し、ついには内部に突入して3つとも占拠してしまった。

大統領のゴタバヤ・ラジャパクサは、もちろんデモ隊が到着する前に逃げ出していた(国外から電子メールで、国会議長に辞表を送ってきたのは5日後のことだ)。ラニル・ウィクラマシンハ首相の私邸にも火が放たれたが、こちらはデモ隊に罪をなすり付けたい親大統領派の仕組んだ工作の可能性がある。

ウィクラマシンハが首相に就任したのは今年5月。デモ隊が首相公邸に乱入し、当時の首相マヒンダ・ラジャパクサ(大統領の兄で、自身も大統領を2期務めた大ベテラン)が逃亡と辞職に追い込まれたので、急きょ起用されたのだった。ウィクラマシンハは過去にも5回、首相に指名されているが、いずれも任期半ばで退陣している。しかも前回の首相在任中には、ラジャパクサ兄弟の腐敗を暴こうとする検察の捜査を妨害した疑いがあり、そのせいで民衆は彼の辞職も要求していた。

もちろん、民衆の蜂起を招いた直接の原因は経済政策の度し難い失敗にある。だがラジャパクサのような男が権力の頂点に立てた背景には、多数派民族シンハラ人の仏教ナショナリズムがある。

建国当時の統治機構は実力主義だったが、やがてゆがんだ仏教ナショナリズムが浸透し、特定の民族(あるいは特定の個人)だけが潤う統治システムが出来上がった。かつて現地の有力紙が嘆いたとおり、それは「密輸業者や詐欺師、殺人犯、牛泥棒など」が支配する政治システムで、これがスリランカの未来を窒息させた。

昨年半ばには、化学肥料や農薬、除草剤の輸入が禁じられた。当然、収穫は減るから農民は困る。だから各地で反政府デモが起きた。しかし当時の政府は既に深刻な外貨不足に悩んでいた。だから輸入をやめて、浮いた資金を農家向けの補助金に回そうと考えていた。

農民の大多数はラジャパクサ兄弟と同じシンハラ人の仏教徒だ。だから、彼らと敵対するつもりはなかった。それに、彼らに対する恐怖心もあった。過去に、ラジャパクサ兄弟を批判したジャーナリストが何人も殺害されていたからだ。

しかし今回は都市部の中産階級にも怒りが広がっていた。3月には反政府派の活動を支持する女性たちが大統領の私邸前で抗議行動を行っていた。4月には大統領府の前にデモ隊が集まり、自分たちの運動は「アラガラヤ(闘争)」だと宣言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ANA、エアバス機不具合で30日も6便欠航 2日間

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 A

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    香港大規模火災で市民の不満噴出、中国の政治統制強…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中