最新記事

日本政治

維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体

A Windfall Victory

2022年7月13日(水)15時43分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

NW_ISN_01-20220713.jpg

参院選では維新が大阪以外でどこまで議席数を伸ばすかが焦点だった(7月1日、京都府長岡京市で演説する松井代表ら) Photographs by Soichiro Koriyama for Newsweek Japan

有権者の意識に最も近い政党

1つ目は維新という政党がどう見られているかだ。秦らの研究グループは有権者への調査でこんな質問をした。

主要政党のイデオロギーについて、0を最も左派、10を最も右派、真ん中を5としたとき、主要政党と回答者自身をどこに位置付けるか。

最も右派と評価されたのは自民でその平均値は6.6、左派は共産と社民が共に3.7で、立憲も左派寄りと見られており4.7だった。維新は中道的といえる5.5、有権者の平均も5.5である。

有権者の意識と最も近い政党が維新と見なされているのだ。また有権者が野党に望んでいるのも、政権に対して原則対抗ではなく、是々非々の姿勢で臨むというものだった。

この結果に、維新に批判的な層はこう考えるはずだ。維新はともすれば安保政策で自民より右派的ではないか。だが政治家の発言と、有権者の評価は往々にしてずれる。

調査から分かるのは、維新の支持層は外交政策を重視していないということだ。外交政策を重視する人は自民に投票している。維新への期待は政治改革や財政再建に集まっており、外交や、維新が強調してきた教育改革もあまり顧みられていない。外交への期待度が低いのは立憲も同様である。

もう1つの特徴は、政権担当能力への評価だ。国政選挙の前後で秦らが調査したところ、昨年の衆院選では60%前後の有権者が自民に政権担当能力があると評価していた。

これは与党としては当然である。維新への評価は選挙前の25.6%から選挙後は33%まで跳ね上がった。これは立憲を大きく引き離し、野党で最も高い結果になった。これらの実証分析から何が言えるのか。

「維新の支持は中道への支持でもある。自民は安倍政権以降、議員レベルでは右派が増え、右にポジションを取るようになった。逆に立憲は共産と組んだことで有権者から左派と見られるようになった。立憲の政策への評価は決して悪くはないが、旧民主党には有権者の拒否反応が強い。そして無党派層の野党共闘路線への支持は薄い。主要政党が真ん中から離れたため、維新は相対的に有権者一般の感覚と近い政党となり、かつ政権に対して是々非々の立場で票を伸ばしやすい状況になった」(秦)

秦の調査から浮かび上がるのは、SNSからは見えてこない多数の有権者の感覚だ。維新の支持、不支持はともすれば、極めて短絡的なメディア批判とひも付く。

「在阪メディアが批判的な報道をせずに吉村を連日テレビに出演させたから維新は支持されている」といったような言説が広がっていく。

「メディアが有権者の意識や行動に与える影響に関する研究では、メディアは、もともとの意見を補強するような効果はあっても、多くの人の政治的な態度を変えるほどの強力な効果はほぼないというのが主要な結果。(コロナ禍での)知事の支持率が高かったのは、大阪に限った現象ではなく北海道や東京でも同じ傾向だ。世界的に見ても、ロックダウンなど厳しい措置を取れば支持率が上がることが、一部の国を除き、各国で観察できる。共通の要因があるのではないか」と秦は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ヒズボラ指導者、イスラエルへの報復攻撃を示唆 司令

ワールド

「オートペン」使用のバイデン氏大統領令、全て無効に

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 航
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中