最新記事

教育

受験勉強のために、思春期に本を読まない日本の中高生

2022年7月6日(水)11時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

1995年公開のスタジオジブリ『耳をすませば』を観た人は多いかと思う。主人公の少女(中3)が思いを寄せる少年は、高校には行かずにバイオリン職人になると決め、夢に向かって着々と進んでいく。それに触発され、少女は物語を書こうと決意する。受験勉強はそっちのけで、成績は急降下し家族に心配されるが、粗削りながら一つの作品を仕上げるに至る。

その結果、自分の不勉強を自覚し「高校に行ってもっと勉強せねば」と、内発的な動機付けが得られることになった。無謀な試しだが、15歳の少女にとって非常に意義があったことになる。

多感な思春期に多くの書物に触れ、志あるならば「試し」をやってみる時間があるといい。だが日本は受験があるので、なかなかそうはいかない。中高生が手に取る書物は、教科書や受験参考書だけだ。

ちなみに学力による高校受験は、どの国にもある普遍的なものではない。高校の校長に「入学者の決定に際して学力を考慮するか」と問うと、<図2>のような回答分布になる。

data220707-chart0202.png

日本では「常に考慮する」が大半だが、アメリカは55%、イギリスは77%、お隣の韓国も33%の高校が「考慮しない」と答えている。学力よりも居住地域、これまでの成績や社会活動等の状況、また学校の教育方針に当人や保護者が賛同するか、という点を考慮(重視)するわけだ。こういうデータを見ると、入試の在り方を変え、思春期の生徒の活動の幅を広げる余地はあるかと思う。

上記の少女の頃(90年代半ば)と違って、今は「試し」の成果を発信しフィードバックを得るためのツール(SNS等)も備わっている。その結果、勉学への内発的な動機付けが得られたり、将来展望が明確になったりすることもある。

学力偏重の入試は、型にはまった従順な労働力を育てる「隠れたカリキュラム」として機能する(長時間、根気よく机に向かわせる......)。だが個性や創造性が求められる令和の時代では、それは逆に機能する。昭和型の慣行を、いつまでも惰性で続けていてはならない。

<資料:国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する意識調査』(2019年)
    OECD「PISA 2018」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中