最新記事

宇宙開発

宇宙の合金・半導体工場が9月打ち上げへ 商用規模の生産は初

2022年7月27日(水)18時57分
青葉やまと

初の商用規模の宇宙工場となる衛星の打ち上げが、今年9月に予定されている...... Space Forge

<真空・低温・微重力の宇宙空間を生かし、優れた合金などを自動運転で製造する>

宇宙開発ではこれまで、地上で生産した機材を宇宙空間へと持ち込むのが常識だった。この逆の流れが現実になろうとしているようだ。宇宙に工場を打ち上げ、製造した素材や半導体を地上へと輸送する計画が進んでいる。商用規模としては初の工場となる衛星の打ち上げが、今年9月に予定されている。

初の商用規模の宇宙工場となるのは、「ForgeStar-0(フォージスター・ゼロ)」と名付けられた人工衛星だ。イギリスのスタートアップであるスペース・フォージ社が開発した。

宇宙空間は地上と比較して、絶対零度に近い低温、真空、そして微重力という特徴がある。この環境を生かし、地上では製造が難しい高品質の合金と半導体を製造する計画だ。英インディペンデント紙は、「地球では製造不可能」な素材が製造できるようになると報じている。

スペース・フォージ社は複数の衛星を地球の低軌道に投入し、宇宙での製造完了後は地球に帰還させて衛星本体を再利用する運用を想定している。南部コーンウォール空港に併設されるコーンウォール宇宙港から、今年9月に最初のテスト用の打ち上げが行われる。このロケットはまた、イギリスから打ち上げられる初のロケットとなる。

重力を無視できる宇宙空間は、素材づくりに最適

ForgeStar-0は宇宙空間の特徴を生かし、高精度の合金や効率の高い半導体などを製造する。共同創業者のジョシュア・ウェスタン氏は、英ウェールズ・オンラインに対し、「地球はモノをつくるにはとても難しい場所だといつも説明しています」と語る。

氏によると、重力のある地球上で金属を混ぜて合金を作る場合、比重の重い鉛が沈み、軽いアルミが浮き上がるなど、2層に分離しやすいのだという。また、生命に重要な地球の酸素は、金属にとっては酸化という厄介な問題を引き起こす。こうした問題が起きない宇宙空間は、軽量かつ剛性の高い合金など、質のよい金属の生成に最適だ。

事業化にあたり同社は、コストの問題もすでにクリアしたようだ。コーンウォール宇宙港は垂直離陸式の打ち上げ方式を採用しておらず、航空機と同様の水平離陸式滑走路を利用する。英スカイ・ニュースは、インフラ整備費用と打ち上げコストを抑制できる方式だと説明している。

また、記事によると、最近では打ち上げ価格が1キロあたり830ポンド(約13万7000円)にまで下がっている。参考として、航空機用タービンに使われるニッケル合金は、キロあたりの価格が打ち上げ費用の10倍と高価だ。打ち上げコストの低下により、宇宙での製造がコストに見合う時代になってきたようだ。

SpaceForce_blog_2022_2.jpgSpace Forge

打ち上げはジェット機とロケットとの2段構え

9月に予定されているForgeStar-0の初回ミッションでは、素材の製造よりも地球への帰還能力のテストに焦点が当てられる模様だ。宇宙工場という特性上、完成した素材や半導体を地球へ持ち帰る能力は必須となる。その後の打ち上げを通じ、随時製品の製造を開始していく計画だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

和平計画、ウクライナと欧州が関与すべきとEU外相

ビジネス

ECB利下げ、大幅な見通しの変化必要=アイルランド

ワールド

台湾輸出受注、10カ月連続増 年間で7000億ドル

ワールド

中国、日本が「間違った」道を進み続けるなら必要な措
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中