最新記事

微生物

「プロバイオティクス」がうつ病の治療に役立つ可能性があることが明らかに

2022年6月23日(木)18時32分
松岡由希子

プロバイオティクスが大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性がある...... ArtistGNDphotography-iStock

<プロバイオティクス(ヒトに有益な効果を与える微生物)が大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性があることが明らかとなった......>

これまでの研究では、腸内細菌叢が私たちのメンタルヘルス(精神衛生)に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。そしてこのほど、プロバイオティクス(ヒトに有益な効果を与える微生物)が大うつ病性障害(MDD)の治療に役立つ可能性があることが明らかとなった。その研究論文は医学雑誌「トランスレーショナル・サイカエトリー」に2022年6月3日付で掲載されている。

腸内細菌叢の組成に変化がみられた

スイス・バーゼル大学と精神科クリニック「UPKバーゼル」の研究チームは、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)で軽症と診断され、うつ病の通常治療を受けている「UPKバーゼル」の入院患者47人を対象に、うつ病患者へのプロバイオティクスの効果について調べた。

抗うつ薬に加え、被験者のうちの21人はプロバイオティクスサプリメント、残り26人は偽薬を31日間にわたって服用した。その結果、抗うつ薬による通常治療ですべての被験者のうつ症状が改善したものの、プロバイオティクスを摂取したグループは偽薬を服用したグループより大きな改善が認められた。

また、腸内細菌叢の組成にも変化がみられた。プロバイオティクスを摂取したグループでは、摂取期間終了時に乳酸菌が増加し、これがうつ症状の改善と関連していた。なお、その4週間後には乳酸菌のレベルが再び下がっていた。研究論文の筆頭著者でバーゼル大学のアンナ-キアラ・シャウブ博士は「4週間という摂取期間は十分でなく、腸内細菌叢の新しい組成が安定するまでにはより時間がかかるのかもしれない」と考察している。

脳活動にも変化をもたらした

プロバイオティクスは脳活動にも変化をもたらした。うつ病患者では感情処理を担う特定の脳領域の挙動が異なり、これは顔の表情に対する反応で測定される。

研究チームは、fMRI(磁気共鳴機能画像法)で脳活動を画像化し、恐怖の表情と無表情への被験者の反応を調べた。その結果、プロバイオティクスを摂取したグループでは脳活動が正常化した一方、偽薬を服用したグループでは正常化しなかった。

腸内細菌叢-腸-脳軸(MGB axis)のメカニズムについてはまだ解明されていないものの、今回の研究成果はプロバイオティクスが抗うつ薬による治療をサポートできる可能性を示すものだ。

うつ病は新たな治療法の開発が急務

現時点において、大うつ病性障害の治療法はまだ満足できるものではなく、うつ病患者の3分の2は最初に投与される抗うつ薬に十分な反応を示さない。新たな治療法の開発が急務となっている。シャウブ博士は「特異な作用を持つ細菌が特定できれば、これを最適に選び出して組み合わせ、うつ病治療をサポートできるかもしれない」と期待を寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

タイ、金取引の規制検討 「巨額」取引がバーツ高要因

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ワールド

11月スーパー販売額前年同月比2.8%増、9カ月連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中