最新記事

「神経性食欲不振症では脳サイズが減少している」との研究結果

2022年6月14日(火)19時00分
松岡由希子

減少の原因はまだ明らかになっていないが...... (写真はイメージ)Nikada-iStock

<英バース大学などの研究チームは、神経性食欲不振症の人とそうでない人の脳構造に重要な違いがあることを明らかにした......>

神経性食欲不振症(AN)とは、極端な食事制限と著しい痩せを主徴とする神経性の摂食障害であり、精神疾患のひとつである。英国では16歳以上の26万6300人の患者がいるとされ、米国でも15歳以上人口の1.2%が生涯のうちに1度は罹患すると推定されている。

減少の原因はまだ明らかになっていないが

英バース大学、独ドレスデン工科大学、米マウントサイナイ医科大学らの研究チームは、神経性食欲不振症における脳の構造的異常について解明するべく、神経性食欲不振症の人とそうでない人の脳のMRI画像を比較する大規模研究を行い、脳構造に重要な違いがあることを明らかにした。その研究成果は、2022年5月31日、学術雑誌「バイオロジカル・サイカイアトリー」で発表されている。

研究チームは、世界22カ所で女性1648人の脳のMRI画像を収集。そのうち685人は神経性食欲不振症患者であり、残り963人は健常者である。これらのMRI画像を比較した結果、神経性食欲不振症の人は、皮質厚、皮質下体積、皮質表面積という脳の主要な3指標で相当の減少が認められた。脳サイズの減少は脳細胞や脳細胞の接続部の喪失を示すと考えられるため重要だ。

神経性食欲不振症が脳サイズに与える影響はこれまでに調査されてきた精神疾患のなかで最も大きく、脳サイズの減少規模はうつ病、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、強迫性障害(OCD)などの症状がある人の2~4倍であった。

神経性食欲不振症での脳サイズの減少の原因についてはまだ明らかになっていないが、研究チームでは「BMI(ボディマス指数)の減少や低栄養状態に起因しているのではないか」と考察している。

減少した脳サイズは回復しうる

この研究では、治療により体重が回復しつつある神経性食欲不振症患者251人の脳のMRI画像を分析し、減少した脳サイズが回復しうることも示した。

研究論文の筆頭著者でバース大学のエスター・ウォルトン博士は「回復に向かっている患者では、神経性食欲不振症患者にみられるような脳構造の大幅な減少がそれほど顕著でなかった」とし、「これは神経性食欲不振症での脳サイズの減少が永続的ではない可能性を示すもので、よい兆候といえる。適切な治療によって、脳が立ち直るかもしれない」と述べている。

研究論文の共同著者で南カリフォルニア大学のポール・トンプソン教授は、一連の研究成果について「摂食障害の人への早期介入の必要性を示すものだ」と警鐘を鳴らす。また「脳画像を参考に用いることで、治療や介入の効果を評価できるだろう」とも指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和

ワールド

米政権、スペースXとの契約見直し トランプ・マスク

ワールド

インド機墜落事故、米当局が現地調査 遺体身元確認作

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、円安で買い優勢 前週末の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中