最新記事

科学

関東某所の井戸で「幻の虫」を発見?──昆虫学者は何をやっているのか

2022年6月1日(水)11時14分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

相当「ヤバい」発見

カントウイドウズムシという生物がいる。ムシと言っても昆虫ではない。時に理科の実験で使われる、切っても切っても、それぞれの断片が1個体に再生してしまうプラナリア(扁形動物)の仲間だ。彼らの中には、地下水にのみ生息する種がいくつも知られ、それら全てが捕獲困難なものばかりとなっている。

カントウイドウズムシは1916年、東京の市ヶ谷にかつて存在した井戸で得られた個体に基づき、新種として記載されたものだ。地下水性生物として日本で最初に報告された、由緒正しき来歴を持っている。

しかしその後、この井戸は消滅し、本種[編集部注:カントウイドウズムシ]の存続の有無が全く分からなくなってしまった。それが1965年、ひょんなことから小松が「幻の虫」を発見した井戸から10キロほど離れた地点の、とある個人宅の井戸にいることが判明し、以後現在に至るまでこの敷地周辺の井戸が本種の日本、いや地球上唯一の生息地だった。

環境省のレッドリストでもランクの高いⅠ類(CR+EN)にまで指定された貴重な種で、この井戸がもし災害などで破壊されたり、水質汚染などでだめになったら、もう他にこの生物を見られる場所がこの世のどこにもないという。

そうしたことから、現在の生息地を何としても守り抜くとともに、万一あるかもしれない第二第三の生息地を新たに見つけ出すことが、本種の保全上急務とされている。

(略)

通い始めてからもう幾日が経っただろうか。今日も今日とて1000回漕ぐつもりでガシガシやるが、やはり出るのはうんざりする数のヨコエビ。でも、一度1000回漕ぐと決めたからには貫徹しよう。その日もそう思って漕ぎ続け、800回ほど漕いだ頃、出汁パックに溜まった土砂をまた洗おうと、すでに土砂の溜まったプラスチック容器を手に取った。

と、その時。私は容器内に、10匹程度のヨコエビ共に交じり、明らかにそれらとは違う風貌の、白くて動くものを見た。

(『怪虫ざんまい──昆虫学者は今日も挙動不審』、新潮社、74−76ページより)


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中