最新記事

プライド月間

1997年以降に新宿二丁目に集った「その他」はテックの恩恵を示す好例【プライド月間に知りたい話】

2022年6月18日(土)17時00分
川和田周

ストレートとトランスジェンダーの垣根を取り払う

ストレートの人向けとしてリリースされたアプリが、その市場のユーザーと潜在的ユーザーを取り込むには差別化を印象付けることが必須だ。

打開策を見出そうとしたのが、英国発のマッチングアプリ「Butterfly(バタフライ)」。2019年10月、イギリスに拠点を構えるMinns(ミンス)から、トランスジェンダーの人と付き合うことに興味があるすべての性別の人を対象にローンチされた。

covid-distance-nw220616001.jpg

handout

従来のマッチングアプリでは、「トランスジェンダーの人々から(ストレートの人へ)送られたメッセージの拒否率はとても高かった」と、Minnsのデビッド・ロナルド・ミンス氏。

「Butterfly」を使い始める際にユーザーはまず、セクシャリティを24通りから選ぶ。さらに細分化された10のオプションからフィットするものを選択するが、これはいつでも変更できる。

たとえば、登録時には自分の性を言葉にできるほど固まっていない場合は「Questioning(自分のジェンダーや性的指向を探している人)」で登録し、後にセクシャリティを自覚したら「MTF(身体的には男性であるが性自認が女性)」に。

性自認(こころの性)を「男性」、または「女性」に固定せず、状況や心理状態で性の認識が流動的に行き来する「ジェンダーフルイド」に柔軟に対応する機能だ。

「何か新しいものの真の必要性」を表現する人々が集うコミュニティへ

「Butterfly」は2019年9月に、英国のデイビッドミンス社からリリースされたマッチングアプリ。英国、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イスラエル、ニュージーランド、スペイン、米国を含む12か国で提供され、インドでは2020年1月6日にリリースされた。

アメリカでは、第3の性別であることを公言するのは人口のわずか1%ながら、Butterflyのコミュニティでは、彼らの意思表現は、はっきりとなされている。

Butterflyの目標は、「その他」に属する人を融合することだ。

インドに注力する背景

Butterflyが特にインド市場に注力する背景にはその「最悪」な状況がある。

2011年に実施されたインドの国勢調査では、性別の申告に「男性」「女性」「その他」の3つの選択肢があった。これは、二元的でない性自認を持つ人々のデータを収集する、インド初の試みだった。

この調査から、インドのトランスジェンダー人口を48万7803人と推定している。13.8億人の全人口に比べればわずかな割合に見えるが、同性愛ヘイトの事件が頻発する環境では、国にデータを取られることを恐れ正直に申告するのをためらった人もある程度いると考えられる。

一方、トランスジェンダーというだけで親に見捨てられる子ども、解雇される人、最悪の場合、殺されたり自殺者を生むほどの社会的圧力が存在する。

2014年4月に、インド最高裁は「第三の性」を認めることを発表したものの、要は形だけ。2018年に、インド最高裁が同性間の性行為を禁じる法律は違憲として、ようやく「犯罪」のレッテルは消えたが、本当にそれだけ。真の意味で、制限が撤廃されたわけではない。2019年に議会で承認されたトランスジェンダー法は、トランスジェンダーの人々を「二流の市民」とみなしている。

インドの社会は「寛容」と言うには、まだまだ状況が追いついていない。そして、この点については日本も通じる部分がある。

自分のセクシャリティをまだはっきりと自覚していないトランスジェンダーを含め、「その他」の人たちのコミュニティが安全にあり続けるための足場固めは、インドだけでなく日本でも必要なことだろう。

国是ももちろん大切だけれど、それは一旦置いといて。自分がどうありたいか、誰が好きか、それだけのことなのだから。

<合わせて読みたい>
同性愛者であることを明かさないまま逝った母へ
リンチの末、見せしめに遺体をバラバラに...タリバン「LGBT狩り」の恐怖
プライド月間、サル痘は性感染症ではないがキスなど濃厚な接触には注意を──CDCガイドライン
アメリカの若者の30%以上が「自分はLGBTQ」と認識していることが判明
【写真特集】LGBTQの親を持つ子供たち

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中