最新記事

家族

同性愛者であることを明かさないまま逝った母へ

My Mom Never Came Out

2021年4月7日(水)17時20分
ヘレン・ガーリック(弁護士、作家)
ヘレン・ガーリック(弁護士、作家)

家族の真実を本にしたことで、私は過去を客観的に見つめられた COURTESY OF HELEN GARLICK

<私は両親がハグやキスをするのを見た記憶がない。母が遺したメモには「レズビアン」という言葉があった>

私の母は、世間の母親たちとは違っていた。金髪で高貴なほど美しく、内省的で謎めいていて、まばゆいばかりの笑顔の持ち主だった。彼女が現れると誰もが目を奪われた。

1954年に母と出会ったとき、父は英ケンブリッジ大学で古典の研究をしていた。母は父の父親が営む家具店で事務の仕事をしていた。おばのジュディによれば、互いに一目ぼれだったらしい。

両親は父が法学を修めるとすぐに結婚した。父はイギリス中部ドンカスターに法律事務所を開き、母は私をおなかに宿しながら仕事を手伝った。私が生まれ、2年後には弟デービッドが生まれた。父は法律家として成功し、地元ヨークシャーの弁護士会会長を40年以上にわたって務めた。

はた目には完璧な家族だった。でも内部には常に緊張があり、真実を覆い隠すような沈黙があった。母は美容院で髪を短くするのが好きだった。母が髪を切ってくると、父はその後きっかり4日間、母に話し掛けなかった。

両親は互いにほとんど触れ合わなかった。カメラを向けられれば笑顔で応じ、父が母の肩を抱くこともあった。でも私は、2人がハグやキスをしているのを見た記憶がない。

両親はリベラルで教養もあった。母が大勢の人を招いて自慢の料理を振る舞うパーティーには、同性愛者であることを公にしている友人たちも顔を見せた。母の長年の女友達グエンもその1人だった。

やがて私も弁護士になるための勉強を始めたが、81年に弟が自殺した。父はその事実を頑として受け入れず、事故だったことにしていた。私は後に何があったかを知り、両親の死後、弟の死の真実を記録しようと決心した。

弟が死んだ悲しみで両親は絆を深めたようだった。ただ思い出すのは、両親の間に何か問題があるのかと尋ねたときの母の強い言葉だ。「お父さんは離婚なんかしない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中