最新記事

アメリカ外交

バイデンがまた「台湾防衛」を明言、今こそ「戦略的曖昧性」を捨てるとき

Away From Strategic Ambiguity?

2022年5月31日(火)14時15分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

220607p30_CPL_02v2.jpg

年越しの花火に照らされた台湾の超高層ビル「台北101」 GENE WANG/GETTY IMAGES

微妙な曖昧性で平和維持

実に分かりにくいが、それも平和を保つため。中国が台湾を領土の一部と主張することには異議を唱えないが、中国がその主張を力で押し通そうとすれば台湾に加勢すると言い、しかしどこまで支援するかには言及しない。

近年は中国が軍事力を強化し、南シナ海でのプレゼンスを拡大しているため、米保守派からは「曖昧性」を捨てて明確に、有事の際の台湾防衛を確約すべきだとの声も上がっていた。だが歴代政権と同様、バイデン政権はこの圧力に抵抗してきた。そんな政策変更は中国政府への挑発になりかねず、一方で台湾のナショナリズムを刺激し、性急な独立宣言に走らせかねない。そうなったら最悪だ。

しかし東京でのバイデン発言は、明らかに伝統の「戦略的曖昧性」から一歩踏み出している。しかも、これには前例がある。

昨年10月にCNNが催した市民との対話集会でも、台湾が攻撃されたら守るかという質問に、バイデンは「そうだ、そうする約束だ」と答えている。同年8月の米テレビ局のインタビューでも、NATO加盟国への軍事攻撃があれば「対応する」と述べた上で、「日本や韓国、台湾の場合も同様」だと付け加えた。

実際、アメリカはNATO加盟国や日本、韓国のために武力で対応する条約上の義務を負っている。だが台湾とはそうした条約を結んでいない。

こうした発言が飛び出すたびに、アメリカ政府当局者は火消しに追われてきた。今回もすぐに「状況明確化」の声明を出し、アメリカの政策に変更はないと弁明した。バイデン自身も翌24日には、台湾政策は「少しも変わっていない」と強調してみせた。

本当だろうか。バイデンは過去9カ月に3度、台湾に対するアメリカの防衛義務について、戦略的曖昧性とはかなり異なる発言をしてきた。「1度なら失言だが、3度なら政策だ」というハル・ブランズ教授(ジョンズ・ホプキンズ大学)の指摘には説得力がある。

果たしてアメリカは政策を変更したのか。答えがどうあれ、中国や台湾、そして周辺諸国の指導者には、アメリカの政策変更を信じる理由があるのではないか? 

ブランズはあると考え、それは良いことだと言う。台湾有事に際してアメリカが軍事行動を起こすと考えれば、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も軍事侵攻をためらう可能性が高いからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

コラム:米インド協議目先難航か、ロシア産原油以外に

ビジネス

セブン&アイHD、30年度の営業収益11.3兆円目

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株安と円高一服が綱引き 決

ワールド

戦後80年メッセージで戦争起こさない仕組み考えたい
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 5
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    イラッとすることを言われたとき、「本当に頭のいい…
  • 8
    【徹底解説】エプスタイン事件とは何なのか?...トラ…
  • 9
    永久欠番「51」ユニフォーム姿のファンたちが...「野…
  • 10
    かえって体調・メンタルが悪くなる人も...「休職の前…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 8
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 5
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 6
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 7
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 8
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中