最新記事

ウクライナ情勢

バイデン、ロシアによる黒海封鎖打破へ ウクライナに対艦ミサイル供与を検討

2022年5月20日(金)09時47分
フィリピン海で対艦ミサイルを発射する米海軍アーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦「カーティス・ウィルバー」

バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。フィリピン海での豪、日本、韓国、米海軍による演習で、「ハープーン」対艦ミサイルを発射する米海軍アーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦「カーティス・ウィルバー」。2019年5月26日撮影。提供写真(2022年 ロイター)

バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。

ウクライナ政府は、既にいずれも携帯型の対戦車ミサイル「ジャベリン」や地対空ミサイル「スティンガー」といった強力な米国製兵器の提供を受けているが、より高性能の兵器を求める姿勢を表明している。その希望リストの中には、ウクライナ領内の黒海の港湾からロシアの艦艇を追い出し、穀物やその他の農産物などの輸出再開を可能にしてくれる対艦ミサイルも含まれる。

米国の政府高官や元高官、議会関係者に話を聞くと、ウクライナに対してより長射程で性能が強力な兵器を送る上では幾つかのハードルがある。戦争のエスカレートを巡る懸念はもちろんとして、兵器を扱うため長期の訓練が必要なことや、保守管理の難しさ、最新兵器がロシアの手にわたってしまう恐れなどが挙げられる。

そうした中で3人の米政府高官と2人の議会関係者は、米ボーイングの「ハープーン」やノルウェー企業と米レイセオンの「NSM」の2種類の対艦ミサイルをウクライナに直接供与、もしくはこのミサイルを保有する欧州の同盟国から供与する案が活発に検討されていると述べた。

ただ現実的な課題も残されている。ハープーンは、本来は艦対艦ミサイルなので、陸上から発射するためのプラットフォームを確保しにくいというのがその1つ。2人の米政府高官は、米海軍艦艇から発射装置を引き抜いて一緒に陸揚げする方法が模索されていると語った。米政府は対艦ミサイルをウクライナの戦闘機に搭載することも考えているとされる。

英国防省によると、現在ロシアの艦艇は黒海の作戦区域に潜水艦を含めて約20隻いるという。

ハドソン研究所の海軍関係専門家、ブライアン・クラーク氏は、ハープーンのように射程が100キロを超える対艦ミサイルが12基から24基あれば、ロシア艦艇に十分脅威を与えられ、ロシア側に封鎖解除を決心させられると指摘。「もしもプーチン大統領が封鎖を維持しても、黒海に隠れ場所がない以上、ウクライナ側はロシア海軍の主力艦艇を葬り去ることができる」と強調した。

米政府高官の話では、自分たちからハープーンをウクライナに提供しても良いという国は何カ国か存在するが、こと自分たちが保有するハープーンがロシア艦艇を撃沈した場合の報復を恐れ、真っ先に名乗り出たがらないという事情もある。それでも、保有数の多いある国がまずハープーンをウクライナに送ることを検討中で、この国が供与を確約すれば他国も追随するかもしれないという。

NSMミサイルは射程250キロで、作戦に必要な訓練は14日弱。北大西洋条約機構(NATO)諸国が地上発射装置を貸し出すこともできるため、配備に向けたハードルはより低いとみられている。米議会筋によると、ノルウェーがウクライナにNSMを寄贈する選択肢もあり、この構想はノルウェーの議会メンバーから支持されている。

ハープーンやNSMといった米国製品が絡む兵器への要請はすべて米国務省が承認する必要がある。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

サムスン電子、第3四半期は32%営業増益へ AI需

ワールド

ベネズエラ、在ノルウェー大使館閉鎖へ ノーベル平和

ビジネス

英中銀、今後の追加利下げの可能性高い=グリーン委員

ビジネス

MSとソフトバンク、英ウェイブへ20億ドル出資で交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇敢な行動」の一部始終...「ヒーロー」とネット称賛
  • 4
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 9
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 4
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中