最新記事

BOOKS

「すぐつなげ」「すぐつなげ」「すぐつなげ」苦情などというレベルではないコールセンターのモンスター客

2022年5月12日(木)20時30分
印南敦史(作家、書評家)
コールセンターのモンスター客

kuppa_rock-iStock.

<コールセンターは「ただひたすら怒られ続けるところ」だったと話す人物の体験記。一方で、心温まる連絡もあったという>

さまざまな職業に就く人々が実体験を赤裸々につづった「ドキュメント日記シリーズ」は、これまでにもこの連載で何度か取り上げてきた。

少し前にも『ディズニーキャストざわざわ日記』を紹介したので「またか」と思われるかもしれないが、とはいえこれを見逃す手はないだろう。

タイトルからも分かるように、『コールセンターもしもし日記』(吉川 徹・著、フォレスト出版)は、コールセンターで派遣オペレーターとして働いてきた人物の体験記だからだ。

著者は大学卒業後に就職したものの、ストレスから体調を崩して退職。そののち体調が小康状態になってきたところで派遣社員として働き始めたそうだ。


 正社員のとき、新卒でもらっていた月給20万円を、派遣社員で稼ごうとすれば、1日8時間労働として時給計算で1400円必要になる。この時給ですぐに始められ、知識や経験を問わない職種を探すと、自然と目につくのが「電話オペレーター」だった。(「まえがき――ひたすら怒られ続けるところ」より)

かつて私の知り合いにも、好きなことだけでは食っていけないという理由から派遣オペレーターになった人がいた。「食っていくため」にはありがたい仕事なのだろう。ただし、よく知られるように決して楽ではない。

その証拠に著者も、コールセンターを「ただひたすら怒られ続けるところ」だったと記している。


 苦情を言われるなどというレベルではない。喚かれ、キレられ、怒鳴りつけられる。平穏な時間が流れるオフィス街の中、一歩コールセンターに足を踏み入れれば、別世界に迷い込んだという錯覚を起こさせるほどの非現実的な日常がそこにはあった。(「まえがき――ひたすら怒られ続けるところ」より)

最初に勤めたのは、ドコモのコールセンター。未経験者歓迎で時給もよかったことから派遣会社に登録したというが、そもそも携帯電話で使うのは通話機能のみで、ネットにはつないだことがないというアナログ人間。当然ながら、料金プランや割引制度にも詳しくない、早い話が素人である。

とはいえ、それでも問題はないのかもしれない。そういう人が応募してくるであろうことは、派遣会社も予想していたに違いないからだ。

事実、採用された派遣先の会社で説明を受けた際、スケジュールを確認すると研修期間が1カ月もあったそうだ。しかも前半2週間は座学とのことで、その期間に必要な知識を学べるのだろうと著者も期待する。

ところが厳しい研修など一向に始まらず、結果として座学の2週間は研修生同士の雑談で終わる。

その後、先輩オペレーターの横に座り、実際のお客とのやりとりをヘッドセットで聴かせてもらう「モニタリング」、先輩オペレーターを相手にした「ロールプレイング」、モニタリングとは逆に、実際のお客との受け答えを先輩オペレーターに聞いてもらう「隣席」を経てひとり立ちすることになるという。

ちなみに、同じ研修生の中には変わった人もいるようである。


 同じ研修生の村井さんは30代の独身で、見ようによってはイケメンに見えないこともない。
「前の職場が男ばかりだったから、モニタリングで女性の隣に座ると化粧の匂いで朝から勃っちゃって」などと嬉しそうにしている。(18ページより)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ソフトバンクG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフ

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズへ追加出資で最終調整=

ワールド

EU、ロシア産LNGの輸入禁止前倒し案を協議

ワールド

米最高裁、トランプ関税巡る訴訟で11月5日に口頭弁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中