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EU・NATOの「首都」が中国スパイの巣窟になっていた

2022年5月2日(月)17時55分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
EU本部

STEFAN CRISTIAN CIOATA/GETTY IMAGES

<日本人が知らない、ブリュッセルの変化。伝統的にロシア人スパイが暗躍してきた場所だが...>

2021年6月、ベルギーの首都ブリュッセルにある欧州議会に属していた議員が、ロシアのスパイだったとして有罪判決を受けた。議員はハンガリーの政治家で、金銭目的でロシア情報機関の協力者となっていた。

ブリュッセルは欧州の「首都」であり、政治・軍事の中心地。EUやその行政執行機関である欧州委員会、NATOの本部などが置かれている。

現在のロシアによるウクライナ侵攻を例に出すまでもなく、歴史的に欧州諸国と対峙してきたロシアのスパイ活動が活発に行われているのは不思議でもなんでもない。

だが近年、ブリュッセルのスパイ事情に意外な変化が起きている。

2019年に欧州対外行動庁が発表した報告書によれば、ブリュッセルには200人ものロシアのスパイが暗躍しているとされるが、実はロシアのスパイよりも、中国のスパイのほうが増えているという。その数は少なくとも250人になるとみられる。

中国と欧州の経済関係が深まっていることを背景に、中国による活発なスパイ活動が行われているのである。

それを証明するかのように、検挙される中国人スパイも少なくない。

2018年には中国のスパイ機関、国家安全省の幹部がブリュッセルでスパイ行為により捕まってアメリカに身柄を送致され、2021年11月にアメリカで有罪判決を受けた。

さらにはブリュッセルのシンクタンクであるEUアジアセンターの幹部が、ジャーナリストに扮した中国人スパイ2人にEU関連の情報を提供していたとして調査されたり、中国のスパイが欧州委員会本部の近くにあるマルタ大使館の改装工事に関与して同大使館をスパイ工作に利用しようとしていたという疑惑が取り沙汰されたこともある。

こうした中国のスパイ活動の増加を警戒し、欧州対外行動庁は欧州関連機関の関係者らに、近所のレストランやカフェの利用を避けるように助言している。

ブリュッセルでは今、中国人スパイの巣窟になっているとして警戒心がかつてないほど高まっている。ヨーロッパの人々が注意すべき相手はロシア人だけではない。

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