最新記事

ウクライナ

ウクライナ軍、電動バイクを投入 最高時速90キロの特注品で無音移動

2022年5月31日(火)19時00分
青葉やまと

<音を立てず、ロシア軍の熱感知でもほぼ捉えられない利点が。荒野を自在に駆け、偵察からミサイル発射までをこなす>

戦地で重宝するのは、大型の装甲車両だけとは限らないようだ。ウクライナ軍は特別仕様の電動バイクを一部地域で導入しており、その最高速度は最高時速90キロに達する。

一般的な装甲車両やガソリン式バイクなどとは異なり、eバイクでは敵陣のごく近くにまでほぼ無音で接近することが可能だ。偵察から対戦車ミサイルの射出まで、多用途に活用されている。導入対象は現時点で一部部隊に留まるが、自分の部隊にも導入したいとの声が将校たちから聞かれるようになった。

エネルギー専門ニュース誌の米エレクトレックは、「これまでのガソリン式ダートバイクよりも軽量であり、騒音も少なく、熱反応を監視しているロシアのドローンに映る放熱も削減している」と利点を強調する。

中央ヨーロッパのニュースメディア『ヴィシェグラード24』は動画にて、ドンバス地方でウクライナ軍の管制下で参戦するグルジア軍兵が、実際にeバイクで移動している様子を報じた。動画を紹介するツイートは、「前線や敵陣内でさえも音もなく移動できることから、この(e)バイクへの需要が大変に高まっている」と述べている。


eバイクの活用は、先端技術を前線に投入するウクライナの新たな事例として知られることになりそうだ。動画に対しある視聴者は、次のように反応した。「ウクライナが応戦し、国家として団結する姿は、まぎれもなく勇気を与えてくれる。沢山の、本当に沢山のストーリーが将来語られてゆくことだろう。」

音もなく接近し、対戦車砲を発射

静音性に秀でるeバイクを用いることで、作戦の目標地点に素早く進入し、対戦車砲などで遠距離から攻撃を加え、そして任務完了後には音もなく離脱することが可能だ。

米ワー・ゾーン誌は、ロシア軍の警戒網を潜り抜けやすいと分析している。ロシア軍はドローンによる熱検知を展開しているが、一般車両よりも放熱が非常に少ないeバイクであればこの監視網を抜けやすく、偵察任務にも重宝されている。

ウクライナで展開中のeバイクには主に2製品があり、うちひとつはウクライナ国内のELEEK社が手がける「ELEEK Atom」だ。この製品は本来、市販品として開発された。

市販モデルは、9万5000フリヴニャ(約41万円)で販売されている。通常の自転車よりはかなり高価だが、大型バイクと比較すれば数分の1という価格だ。


ELEEK Atomはマウンテンバイクにも似た外見ながら、最高時速90キロの実力を秘める。まったくペダルを漕がなくとも、荒れ地を高速で疾走できる作りだ。

オフロード仕様のタイヤとバイク譲りのサスペンションを採用しており、戦地の大部分を占める悪路の走行に向いている。航続距離は最大100キロと長く、4時間ほどでフル充電という実用性の高さも特長だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

3日に予定の米イラン第4回核協議、来週まで延期の公

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中