最新記事
認知障害

「性格と高齢期の認知障害には関連がある」との研究結果

2022年4月27日(水)17時02分
松岡由希子

Dr_Microbe-iStock

<ビクトリア大学らの研究チームは、「誠実性」、「外向性」、「神経症傾向」の因子が高齢期の認知機能に果たす役割について調べた......>

「几帳面で自制力が高い人は加齢による軽度認知障害(MCI)を発症しづらい一方、気分屋で情緒不安定な人が高齢になると認知機能の低下を起こしやすい」とする研究結果が明らかとなった。

加ビクトリア大学らの研究チームは、性格特性の分類法「ビッグファイブ」における5つの因子のうち、「誠実性」、「外向性」、「神経症傾向」に着目し、これらの因子が高齢期の認知機能に果たす役割について調べた。その研究論文は2022年4月11日、アメリカ心理学会(APA)の学術雑誌「ジャーナル・オブ・パーソナリティ・アンド・ソーシャルサイコロジー」で発表されている。

「誠実性」スコアが高い人は、軽度認知障害への移行リスクが低い

「ビッグファイブ」によると、「誠実性」のスコアが高い人は責任感があり、勤勉で、目的志向型だ。「外向的」な人は他者と一緒にいることでエネルギーを得、自身のエネルギーを他の人々や外の世界へ向ける。熱意があり、社交的で、話好きで、積極的な傾向がみられる。一方、「神経症傾向」のスコアが高い人は情意安定性が低く、気分変動や不安、抑うつ、自信喪失などに陥りやすい。

研究チームは、米ラッシュ・アルツハイマー病センター(RADC)の縦断研究「メモリー&エイジングプロジェクト(MAP)」に参加するシカゴ都市圏とイリノイ州北東部の高齢の居住者1954人のデータを分析した。なお、対象者の平均年齢は80.0歳。73.5%が女性で、87%が白人であった。

その結果、「誠実性」のスコアの高さと軽度認知障害への移行リスクの低下には関連があり、「誠実性」が0~48の尺度で6ポイント以上だと軽度認知障害への移行リスクが約22%低下した。たとえば、「誠実性」のスコアが高い80歳の高齢者はこれが低い人よりも約2年長く正常な認知機能を維持できると推定される。

「神経症傾向」のスコアが高い人は、軽度認知障害への移行リスクが高い

「神経症傾向」の高さと軽度認知障害への移行リスクの上昇にも関連がみられる。「神経症傾向」が0~48の尺度で7ポイント以上だと軽度認知障害への移行リスクが約12%上昇した。「神経症傾向」のスコアが高い人は正常な認知機能を維持できる期間が1年以上短い。

一方、「外向性」と軽度認知障害への移行リスクには関連が認められなかったが、「誠実性」が高いか「神経症傾向」が低い「外向的」な人は、正常な認知機能をより長く維持する傾向がみられた。また、「神経症傾向」が低く「外向性」の高い人は、軽度認知障害の診断を受けた後、認知機能が正常に回復しやすい。「外向性」が高いと、社会的な交流やサポートを通じて認知機能の改善につながりやすくなる可能性がある。

研究論文の筆頭著者でビクトリア大学のヨネダ・トミコ博士は「性格特性は思考や行動の永続的なパターンを反映しており、生涯にわたって健康または不健康な行動や思考のパターンに影響を及ぼし続ける」とし、「このような長年の積み重ねが、軽度認知障害のような特定の疾病や障害へのかかりやすさにつながっている可能性がある」と指摘している。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中